【木村ヒデノリのTech Magic #100】 この連載の話をもらったときは継続が苦手な筆者がここまで続けられるとは思っていなかったが、おかげさまで今回が100本目のレビュー記事となる。毎回読んでくださっている読者と、何よりさまざまな調整を担い、私の率直なレビューを最大限に活かしてくれている編集担当には心から感謝したい。 さて、今回はここまで新しいものばかり紹介してきたザ・新しもの好きの筆者が、レトロカメラに目覚めてしまった話を紹介したい。前回の記事でも少し触れたHasselbladの「CFV II 50C」というデジタルバックと往年の「500C/M」を組み合わせたセットアップだ。
元来ライカのような往年のカメラ的なものより最新のミラーレスが好きな筆者だったが、ハッセルブラッドのアイコニックな姿は以前から気になっていた。デザイン的にも統一されたCFV II 50Cを装着すればこれらが簡単にデジタルカメラとして使えるということで手に入れて使ってみたが、これが驚くほど素晴らしい体験となった。さまざまなパーツを自分で揃えて自分だけの1台にする魅力や、昔の技術が実用的に蘇る魅力などをお伝えしたい。
デザインも秀逸なデジタルバック
CFV II 50Cには元々907Xというマウント部分が付属するため、最新のXシステムレンズを装着してミラーレス中判デジカメとして使うことができるが、センサー部分をデジタルバックとして古いカメラに装着して使うこともできる。このセンサー部分がCFV II 50Cという型番で呼ばれているわけだ。
このセンサー部分のデザインが往年のカメラと統一されているのも大きな魅力の一つ。これまでのデジタルバックというと、機能性は高いがその一部分だけメカメカしい装いになってしまうことがほとんど。せっかくレトロなカメラを購入しても持ち歩く満足感を削がれてしまっていた。
対してCFV II 50Cはシームレスなデザインで一体感が感じられ、撮るために持ち出してもモチベーションが上がる。性能を追求すれば他社製でもっと解像度の高いものなどもあるが、装着して持ち運び撮影をする、という一連の体験で考えれば純正のこちらに軍配が上がるだろう。
時を経て再認識するVシステムの可能性
こうした運用を可能にしているのがVシステムという構造だ。1957年から製造が開始された500シリーズは、本体、フィルムマガジン、レンズ、ビューファインダーというシンプルなパーツから構成され、この形状を元に後の世代のカメラがリリースされている。基本となる構造がずっと変わっていないために、最新のミラーレス一眼をデジタルバックとしても使うというアイデアが実現したのだ。
フィルム時代からレンズシャッターを採用していたのも良い選択だった。意外と知られていないが、最新のデジタルカメラでも電子シャッターでない限り1/250秒よりも早くなるとストロボ撮影でシャッター幕が映り込んでしまう。これを防ぐためにハイスピードシンクロと呼ばれるストロボの機能が必要になるが、長時間ストロボを発光させるため通常のストロボ撮影と比べてムラになりやすい。古い機種ではストロボ撮影に工夫はいるものの、それぞれのレンズで早い同調が可能なのは他のレトロカメラにはない利点だろう。
とにかく楽しいパーツの組み替え、自分の誕生日機種を探すのも粋
同じ構造を採用していることで、古いパーツから新しいパーツまでさまざまなものを装着し、自分好みのカメラにできるのもHasselbladならではの魅力だ。例えば、巻上げクランク一つとっても年代別にデザインや機能性が変わってくる。変わり種では露出計を内蔵したものまであり、愛好家の中にはこれを腕時計のようにベルトで腕に固定して使っている方も。ビューファインダーも、上から覗く従来の方式に付け替えて、45度と90度の角度で見られるようにするパーツもある。実用性を損なわずに自分オリジナルのレトロカメラを組み上げられるのもHasselbladの楽しさだ。
パーツの換装がしやすいのも非常に良い。筆者は実用として商品などを撮る際は露出計付きのファインダーを使っているが、スナップなどで持ち出す時はあえて古いファインダーにしている。ファインダーが違うとピント合わせまでの時間が変わるなど、撮影体験が変わるので撮れる画も大きく違ってくる。
スクエアでは撮れないが、この楽しさは他では代えられない
一つだけ残念なのは、ハッセルブラッドならではの正方形で撮れない点。ファインダー全体が映るわけではないので、付属のアダプタか専用のフォーカシングスクリーンで撮影範囲を把握しながら撮らなければならない。
この点だけは少し残念だが、装着しただけであとはシャッターを切れば良いという使い勝手の良さ、ミラーレスとして使っている時と同様の操作感などはこの欠点を補って余りあるだろう(500C/Mでは必要ないが、別機種ではその機種を指定する必要がある場合もある)。今後、正方形で撮影ができる上位モデルの登場も十分あり得るのでそれを期待したい。またその際はフィルム時代に特徴的だった「ハッセルノッチ」を入れる、入れないなどの選択肢ができるとノスタルジーが増すのではないだろうか。
古いのに現代でもここまで実用的に使えて正直驚いた。今ではスナップ撮影の常連カメラになっており、買って心底良かったと思っている。最新ミラーレスとレトロカメラの双方を実用レベルで使い分けられるという体験は、CFV II 50Cだけが提供できるなんとも贅沢な選択肢だ。(ROSETTA・木村ヒデノリ)
木村ヒデノリ
ROSETTA株式会社CEO/Art Director、スマートホームbento(ベントー)ブランドディレクター、IoTエバンジェリスト。
普段からさまざまな最新機器やガジェットを買っては仕事や生活の効率化・自動化を模索する生粋のライフハッカー。2018年には築50年の団地をホームハックして家事をほとんど自動化した未来団地「bento」をリリースして大きな反響を呼ぶ。普段は勤務する妻のかわりに、自動化した家で娘の育児と家事を担当するワーパパでもある。
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