(C)吉田たかゆき

仲道郁代のライフワークであるベートーヴェン。その解釈と演奏はますます独自の深みを増している。作曲家没後200年の2027年に向けての横浜みなとみらいホールでの「ピアノ・ソナタ全曲演奏会」は、全32曲を4期(8回)に分けて弾き切るシリーズ。第II期の第3回[12月3日(土)]と第4回[2023年4月8日(土)]について聞いた。
番号順に、つまりおおむね成立年代順に弾いていくのではなく、今回の全曲シリーズでは各回ごとにテーマを設け、さまざまな切り口でプログラムを組んだ。
「ベートーヴェンの思考のかけらが、時を経て、さまざまな作品に現れる。その共通点をみなさまとともに感じることができればと思っています」
全体のラインナップを見て気づくのは、何度か同じ曲を演奏すること。第II期で言えば、12月の第17番《テンペスト》や第23番《熱情》、4月の第8番《悲愴》は、他の回でも演奏する。
「32曲のソナタの中にある、ベートーヴェンのいくつもの顔を浮き彫りにするためです。同じ曲でも切り取り方によって私の捉え方も変わると思いますし、お聴きになった印象も変わるのではないかと思います。ベートーヴェンの音楽はそれぐらい豊かな表情を内包している。一面だけの音楽ではないのですね」
第3回は「テンペスト~飛翔する幻想」をテーマに、第6番、第17番《テンペスト》、第23番《熱情》、第22番、第28番を弾く。
「第28番は、ロマン派の幻想曲の大もとになっている形式です。それだけではなくて、同時期の連作歌曲集《遥かなる恋人に》に込めた思い、ものすごくロマンティックな想念がこの中にもあるんですね。《テンペスト》のストーリー性、《熱情》の幻想的な情熱、第6番の演劇的なコメディのようなやりとりの気配。〝幻想〟がさまざまな形で飛翔しているというのがこのプログラムです」
第4回「悲愴~はるかなる憧れ」は第3番、第18番、第8番《悲愴》、《エリーゼのために》、第31番。
「悲愴と憧れという、相反する言葉ですが、《悲愴》の持つ、辛さ、悲しみの先に、前へと進もうとするエネルギーを捉えることができるプログラムです」
第4回の公演前には、仲道が所有するベートーヴェン時代のピアノを弾きながらのプレトーク&コンサートも。(レプリカでなく)1816年製のオリジナルのブロードウッド。これは2公演セット券購入者限定の特典だ。見逃せない。
(宮本明)