NHK Eテレの音楽番組「ららら♪クラシック」(2012年4月~2021年3月)のわかりやすさと楽しさはそのままに、司会の高橋克典による案内のもと、一流音楽家の生演奏を体感できる「ららら♪クラシックコンサート」。今回は「クラシック界 期待のヴィルトゥオーソ~国際コンクールの受賞者たち~」と題し、ワールドワイドに活躍する日本の若手演奏家6名による贅沢な競演をお聴きいただけます。出演者のひとり、2015年のロン=ティボー=クレスパン国際コンクールにて第3位(1位なし)、最優秀リサイタル賞、最優秀新曲演奏賞を受賞した日本の若手を代表するピアニスト、實川風(じつかわ かおる)さんにお話を伺いました。
――今回演奏されるチャイコフスキーの『ドゥムカ』とは、ずいぶん長い付き合いなのだとか。
中学3年生の時に先生が勧めてくれたのがきっかけで弾くようになりました。
――ロン・ティボーでもプログラムに入れておられましたが、どんな曲なのでしょうか?
この曲のドゥムカは「哀歌」という意味なのですが、さらにサブタイトルに「ロシアの農村風景」とあります。僕のイメージでは厳しい冬の農村から物語が始まります。極寒の季節に家の中でウオッカを飲むおじさんの歌……悲しさや、やるせなさがそこはかとなく広がっていきます。中間部はテンポを上げて、お酒の力で元気になった人々が無骨なダンスを踊り始める。そんなシーンに続いて猛吹雪が吹いてきたり、さまざまな情景が目の前に広がっていきます。オペラやバレエ音楽を切り取ったような世界が、8分くらいの間に次々と展開していく。コンクールだったりコンサートだったり、演奏するたびに新しい風景が見える曲です。
――ピアノの魅力について教えてください。
一人で、同時に色々な音楽の要素を表現できるところでしょうか。メロディーを弾きつつベースのラインも作り、内声のタイミングや呼吸もコントロールしながら、一人で音楽の世界を描き出せるのが魅力ですね。反面、そこがこの楽器の難しいところでもあるのですが……。僕はオーケストラが好きなので、一人ではできないことへの憧れがあるのですが、ピアノソロの素晴らしさは「この人はどういう人で何をしてくれるのか」という、“ピアニスト一人だからこそ到達できる音の世界”にあると思います。
――本公演への思いをお聞かせください。
やはり生のコンサートで、自分が思い入れを強く持っている曲を会場全体と共有できる時間は特別です。お客様とひとつの空間で音楽の持つ可能性を体験できたら、ということをいつも心がけています。作曲家の音符を理屈だけではなく、“ひとつの体験”として全身が満たされるような時間にできたら理想ではないかなと思っています。
(文・坂井孝著)