カヴァー曲から溢れる高橋李依さんの歌心『からかい上手の高木さん』
"歌"に焦点を絞って今期のアニメ作品を見てみると、『からかい上手の高木さん』も実におもしろい試みを行っています。
本作のエンディング曲では、主役の高木さんを演じる高橋李依さんが歌うJ-POPのカヴァー曲を使用しており、"アニソン"として再解釈された「いきものがかり」や「HY」の名曲を堪能できるのです。
『気まぐれロマンティック』や『AM11:00』といったゼロ年代の大ヒット曲が一種の"懐メロ"としてアニメ作品にカヴァー曲として使用される時の流れの速さと意外性に思わず愕然としてしまいますが、どの楽曲も高橋さんのポップで可愛らしい歌声と高木さんのコケティッシュなキャラクター性が曲本来の良質なメロディに新たな息吹を与えており、新鮮な気持ちで聴くことができます。
あくまで高橋さんの歌声を主役とし、音の配慮とバランスの行き届いた編曲や、アニメ作品の主題歌として「1分30秒」の尺に収まるようにテンポや構成を調整したアレンジャーの仕事も素晴らしい。
高橋さんの"歌"の強さに加えて、選曲の妙やアレンジの手法にも注目すべき本作のエンディング曲。これからどんなヒット曲がカヴァーされるのか、とても楽しみです。
『ハクメイとミコチ』は、歌に加えてアレンジャーの仕事にも注目!
最後にその歌の魅力をピックアップしたい楽曲が、『ハクメイとミコチ』オープニング曲の『urar』です。
北海道在住のシンガーソングライターであるChimaさんの新曲で、兎にも角にもその美声と囁くような特徴的なヴォーカルスタイルが全力で感性を揺さぶりに掛かってきます。
クラムボンのミトさんやTECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDの松井洋平さんが参加しているアニメ音楽ユニット「TO-MAS」へのフィーチャリングヴォーカリストとしての参加(『フリップフラッパーズ』ED曲の『FLIP FLAP FLIP FLAP』)や、『ゼロから始める魔法の書』の主題歌を担当するなど、近年では積極的にアニメ関連の楽曲もリリースしているChimaさん。
実力派シンガーソングライターらしく、自身の歌世界をシッカリと確立しつつも、各アニメ作品の世界観に合わせて楽曲をクリエイトする技術には目を見張るものがあり、今後の活躍にも要注目の歌い手です。
また、本曲は、アレンジャーとして高野寛さんが参加している点にも触れておかなければなりません。90年代に『虹の都へ』や『ベステンダンク』などの大ヒット曲を生み出し、以降も、様々な音楽ユニットでの活動や良質なソングライティングで知られる高野さん。
普遍的なポップス性に、ニューウェーヴを通過したマニアックな音楽エッセンスを加味した通好みの音楽的才能を持つ高野さんらしく、この『urar』においても、Chimaさんのアコースティックなサウンドにエレクトロニカを思わせるアブストラクトな音響を付与することで、独自の音を作り出しています。
一種の実験性も感じさせるサウンドアプローチではありますが、とはいえ、"歌モノ"として一切、芯がブレていないのは、Chiamaさんの歌声の個性に依るところが大きいのでしょう。
歌い手のアーティスト性とアレンジャーの才気を同時に感じられる1曲であり、そこから生み出される寓話性を含んだサウンドは小人による生活を描いた『ハクメイとミコチ』の物語性とも相性抜群。「グレート!」な今期のアニソンです。
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