我々はベタなことをいち早くやっていたのかもしれない
松永:それはどういう意味で?
浜崎:さっきのアプリの話もそうですけど、そういう話を聞いた時点でもう「絶望」ですよ。自分の美意識とは離れるものに自分が合わせる必要もないということに気づいたんです。昔は「フォロワー増やさなきゃ」という気持ちもあったんですけど。
松永:炎上もそうだけど、結局ネット上の様々なことを批判することで、それに加担することになってしまう。そこに疲れてるんじゃない?
浜崎:そうですね、それにもがっかりしてる。実際「SNS疲れた」って思ってる人も多いでしょうから、今回のアルバムも共感していただける部分も多いのでは。
松永:そういう気持ちをネット上に書き散らすんじゃなくて、できるだけ作品の形に昇華して、世に問うていきたいな。
浜崎:自分たちはやっぱり、ミュージシャンだし歌手だし、ひとりの人間として認めてもらいたいというより、音楽を聴いてもらいたいんですよ。
松永:まあ我々はYouTuberやツイッタラーではないですからね。
浜崎:そこを改めて再確認できたのかな、この作品を作りながら怖いものなしになってきたというか、何が出ても最初から恥ずかしい存在だったからいいやって思うようになりました。
――そのくらい自信作ということですね。
浜崎:最初のPVから経血流してたし……と。10年でだいぶ頑丈になった。強くなったというより、頑丈になった。
「セーラー服を脱がないで」MVはこちら> https://www.youtube.com/watch?v=tuoWbuhneDM
――頑丈にならざるをえなかった、と。
松永:インターネットって昔はもっと希望に溢れた場所だったじゃないですか。2000年ごろは。皆が自分で発信できるっていう夢のような場所だと。でも蓋を明けてみたら、権力じゃなくて国民同士で監視してるじゃないですか。なんかこいつ変なこと言ってるぞ、ってなったら袋叩きになる世の中に変わってしまった。ユートピアだと思っていたら焼け野原に変わってしまった。そんなインターネットを生きるということなんです。
――そして電車が遅延していて遅刻されていたおおくぼさんが到着されました。
おおくぼ:今は何の話してます?
松永:サブカルも一般化しましたよね。もうサブカルも何を指すんでしょうね。案外、赤羽とかのおじいさんがサブカルなのかもしれないね。
瀬々:今となっては!
松永:もうアニメやマンガは一般カルチャーだから。発見されるとサブカルじゃなくなっちゃう。
瀬々:アイコン化したよね。
松永:「あるある」になってる。
おおくぼ:むしろ今のメインカルチャーって何かといったらわからないですよね。
松永:サブカルって一般化してきているんですけど、「本当のサブカル」……なんていってしまうと選民主義的ですけど、いわゆる昔ながらのサブカル的なものは未だに畑も無いし、未だに限られた場所でやってると思いますよ。
例えばSEKAI NO OWARIはサブカル要素はあるけど、大衆まで届いたのは深瀬くんがヤンキーだったところによるところが大きいですし。『ポプテピピック』もそうですけど、ヒットするものは「サブカル・+@」なんじゃないかな。その中でも我々は王道なところをやっているのかもしれないけど。
おおくぼ:加入前からよく対バンしてたんですけど、アーバンギャルドって、サブカルっぽいことをやろうというときに、絶対恥ずかしくてできない、やらないってことをやっていたんですよ。ど真ん中すぎて。サブカルど真ん中の直球投げてきたみたいなのを恥ずかしげもなくやっていたんです。
松永:たしかに昔は「ベタなところから引用するね」とはよく言われましたね。
おおくぼ:「そこ持ってきちゃうんだ! 恥ずかしくねえ?」というか、最初は「うらやましい」って思ってたんです。これとこれやられたらずるいよね、みたいな。渋谷系みたいな感じと、寺山修司的なもの、筋少っぽい歌詞とかでやってるのは、全部好きなやつだから、ずるいなって、好き放題だなって思ってましたね。
浜崎:知る人ぞ知るものの引用とかオマージュをさせていただいた場合、本当のパクリになりません? 逆に。わかりやすいところから参照させていただいていることは、とても健全なことではないのかなと思ったりするんですけどね。
松永:カルチャーというのものは文脈で続いていくものですからね。
おおくぼ:そしてだんだんオマージュされる側になってきたんじゃないですか。
松永:そうですね、そういうポジティブな解釈ができたらいいんですかね。我々は少女的なものをずっと歌ってきたけど、今のサブカルチャーの間で「少女的なもの」が占める割合がどんどん大きくなっている感はありますよね。
浜崎:セーラー服で前髪ぱっつん、ロングヘアになったのって……すごく自意識過剰なのかもしれませんけど……。雛形はひょっとして……。
松永:我々はベタなことをいち早くやっていたのかもしれないよね。アーバンギャルドと古屋兎丸先生のコラボセーラー服が全国のビレバンで売られる時代ですよ。