子育ての現場での講演活動や多数の著書で知られる、児童精神科医・佐々木正美さんが亡くなって、今年の6月で1年になります。
1998年に発行された佐々木先生の『子どもへのまなざし』は、累計80万部のロングセラー。全国のどの自治体の図書館にも置いてあるといっても過言ではないほど、たくさんのママたちに今も読まれている育児書で、ツイッターにはボットまであります。
なにがそこまで普遍的なのでしょうか。
『子どもへのまなざし』をあらためてひも解きながら、子育てにおいて大切なことを確かめ、拾っていきたいと思います。
どんな本?
300ページにも渡る分厚い本で、決して読みやすくはありませんし、持ち運びに便利なわけでもありません。
内容の繰り返しも多いのですが、講演をもとにした本なので、佐々木先生が子育て中のママに語りかけているようなやさしいトーンが、全体を貫いています。
挿絵は、児童書のロングセラー『いやいやえん』、『ぐりとぐら』で知られる山脇百合子さんが担当しています。
イメージとしては、いつでも手に取れる場所に置いておいて、子育てや家事の合間にパラパラとめくる感じでしょうか。偶然開いたページに、その時、必要な言葉が飛び込んでくることも、あるかもしれません。
佐々木先生は昭和10年、つまり1935年にお生まれになりました。ご両親は明治生まれだそうです。
今では想像に頼るしかありませんが、当時は多くの国民の生活に余裕はありませんでしたが、子育てに悩む人はいなかったのではないでしょうか。
その時代に育った佐々木先生が、1998年時点から振り返って、いわゆる昔はよかった、というトーンではなく、現代の子育てに足りないことをやさしい言葉で伝えてくれます。
子どもをみる目が変わる珠玉の言葉たち
さて、それではさっそく、『子どもへのまなざし』からの言葉をご紹介していきたいと思います。
ママへの信頼がそのまま自分や世界への信頼につながる
新米ママを悩ませるのは、赤ちゃんの泣き声でしょう。どうしたらいいのかわからずパニックになったり、 自分まで泣きたくなりますよね。
乳児が自分でできる努力というのは、泣くことだけだということがわかります。泣くことで親をはじめ、まわりの人に自分の希望を伝えるわけです。その伝えた希望が望んだとおりにかなえられればかなえられるほど相手を信じるし、その相手をとおして多くの人を信じるし、それよりなにより自分自身を信じるし、自分が住んでいる環境、地球、世界を信じることができるのです。人を信じることと自分と世界を信じることとは、このようにおなじことなのです。出典『子どもへのまなざし』佐々木正美著/福音館書店
深い、深いです。
赤ちゃんのすべての要求を完全にかなえてあげることは、新米のママにはまず無理でしょう。それでも赤ちゃんはあきらめずに泣きます。あれは、赤ちゃんが世界に対峙している姿なのですね。
そう考えると、泣いている赤ちゃん、カッコいい・・・と思えてきませんか。
子育てのカギは待つこと
教育とか育てるということは、私は待つことだと思うのです。 「ゆっくり待っていてあげるから、心配しなくていいよ」というメッセージを、相手にどう伝えてあげるかです。子どもにかぎらず人間というのは、かならずよくなる方向に自然に向いているわけです。
出典『子どもへのまなざし』佐々木正美著/福音館書店
この言葉を知ったとき、なんてやさしい言葉だろうと思いました。
大人になると、いくら自分では「よくなる方向」に行こうとしていても、相手を待たせていると感じた瞬間、焦ってうまくいかなくなってしまったり、自分からあきらめてしまったりしますよね。
小さな子どもがマイペースと言われるのは、相手を待たせていることに気づかないくらい、「よくなる方向」に集中しているからなのでしょう。
実際に時間に追われているときは仕方がないかもしれませんが、たとえば子どもが自分でなにかをやろうとしているときくらいは、意識して待ってあげられたらいいですね。
そのためには、一日にやることを減らす工夫も必要かもしれません。