隠せない「ネガティブな変化」

明子さんには、大学時代から付き合いが続いているという友人が三人いて、たまに集まってはそれぞれの恋愛事情などを打ち明ける時間を楽しんでいました。

「A子もB子も彼氏がいて、私だけいない状態でした。

それでもふたりの恋バナを聞くのは楽しかったし、卑屈になることはなかったと思います。

普通の恋愛なら真っ先にこのふたりに言うのですが、不倫なので反対されるのは目に見えていて、考えた末に隠すことを決めました」

本当の状態を言えないストレスはあるけれど、そのときも、明子さんはふたりの恋バナに耳を傾ける時間に不満はなかったそうです。

「ちょうどバーゲンをやっているし、来週の日曜日は三人で買い物に行こうよ」とA子が言い出し、明子さんはすぐに承諾します。

ところが、その日曜日の朝になって、彼から「妻が休日出勤になって、子どもたちは妻の実家に遊びに行くから時間があるよ。会わない?」とLINEでメッセージが飛んできます。

一週間ほど会えていなかった明子さんは、「行きたいけれど友達と約束をしている」と正直に話しますが、「今日会えなかったらまた一週間くらい時間が作れなくなるけど、いいの?」と彼から強い言葉が返ってきて、悩みました。

「結局、A子たちとはまた会えるし、と思って彼の誘いを受けました。A子たちにはLINEで急な仕事が入ったと伝えて、平謝りでしたが……」

友人たちに申し訳ないと思いながらも、彼との時間は「特別なもの」だったという明子さんは、ホテルに到着する頃には罪悪感も消えていたといいます。

「お互いの仕事の状況はわかるので会えないのは嘘じゃないし、その頃は毎日『好きだ』『会いたい』ってLINEで言い合うような感じで、いかに彼と触れ合う時間を作るか、必死でした」

その前のめりな気持ちは仕事に集中する力をくれる一方で、ほかの人とのコミュニケーションには悪影響を及ぼします。

「その頃、B子が彼氏と喧嘩して別れ話が出ていて、三人で作ったグループラインでよく話していました。

B子がしんどいときに私に電話をくれるのですが、彼から着信があると『ごめん、仕事の電話がきた』とB子に言って切り、彼との電話を優先していました。

彼と話すことに夢中で、その後でB子にフォローの連絡をするとか、そういうのを忘れていましたね……」

と肩を落とす明子さんは、当時の自分がどんな状態だったか、「上の空というか、適当な対応ばかりしていたと思います」と振り返りました。

グループラインで出るB子の暗い気持ちに応えるのも「だんだんと面倒になり」、既読をつけて終わるようなことが増えます。

「一度、A子から『何かあったの?』とLINEでメッセージをもらいました。

私が三人の話に集中していないし、B子からも何か聞いていたのかもしれないと今は思うのですが、そのときは『彼との関係を邪魔しないで』と感じる気持ちが強くて、とにかく仕事が忙しくて、で逃げていましたね」

そんな自分がふたりにどう映っていたのか、明子さんは既婚男性との不倫関係が終わってから知ることになります。

遠ざけられていた自分

「彼と別れたのは、私が暴走して『離婚もしないのに私と会うのは卑怯だ』みたいなことを言ってしまったのがきっかけです。

本気で離婚してほしいとまでは思っていなかったのですが、私が会いたいと言っても家庭の事情ばかり持ち出す彼にイライラして、寂しさをぶつけた結果でした」

そんな明子さんを見て、彼は「それを言われたらどうしようもないよ」と返し、そのままLINEも着信もブロックされて関係は終わります。

「あっけないというか、こんなものか、という感じでした」

とため息をつく明子さんでしたが、どのみち彼との関係はいつか終わるものだったのも事実、と割り切って前を向くことを決めます。

少し疎遠になっていたA子さんやB子さんとも、これからは改めて昔のように仲良くしていきたい、と思っていたそうです。

その頃、三人で作ったグループラインに投稿はなく、B子さんが彼とどうなったのか、A子さんはどうしているのかもわからない状況でした。

「それで、グループラインに思い切って『仕事が落ち着いたから、久しぶりに会わない?』って送ったのですね。

でも、既読はつくけどふたりとも返信をくれなくて、何かあったのかと焦りました」

B子さんとは中途半端な電話で終わっていたことを思い出し、A子さんに「最近ちゃんと話せずにごめんね」と送った明子さんでしたが、「電話してもいい?」と返してくれたA子さんと話したとき、自分の置かれている状況を知ります。

「『仕事が忙しいって言っていたけど、本当は彼氏ができたのじゃない? 明子のインスタグラムの投稿を見たらそれっぽいけれど』と真っ先に言われて、背筋が凍る思いでした」

インスタグラムはずっとやっているけれど、ほかのふたりはアカウントを持っていないため普段は滅多に話題に出ることはなく、そのため明子さんはバレないだろうと思ってこっそり彼と食事に行ったときの写真などを投稿していたそうです。

「B子がね、あなたと話していても急に切られるしその後もかけ直してくれないし、って心配していたのよ。グループラインでも返信をしなくなっていたでしょう?

それで、B子とふたりであなたに彼氏ができたのかもねって話していて、いつか打ち明けてくれるだろうと待っていたのだけれど」

と、A子さんは冷静な口調で続けます。

「でも、投稿で気がついたのだけど、あなた不倫していない?」

まっすぐにそう尋ねられたとき、明子さんは自分が書いた「叶わぬ思い」「報われない関係」などの言葉を思い出します。

投稿を振り返ってみれば、いかにも不倫中の苦悩を思わせるような内容で、「リアルではこのふたりしか私の正体を知らないので、書いてもバレないという油断があった」ことを、明子さんは今も後悔しています。

「……」

言葉が出ない明子さんに、A子さんは淡々と「不倫しているって言えない気持ちはわかるけれど、私たちとの関係が適当になっているのはやっぱりつらいし、B子はあなたを信用して悩みを話していたわけだし、ごめんね、ちょっと距離を置きたいの」と、自分たちの気持ちを伝えます。

「わかったとしか言えませんでした。不倫はもう終わったから、と言いたかったけれど、そんなの無意味じゃないですか……」

力のこもらない声でそう言って、明子さんは下を向きました。