不毛な関係が飲み込んだもの

A子さんとの電話を切ってからしばらくは放心状態だったという明子さんですが、「B子さんと話そうとは思いませんでしたか?」と尋ねると

「大事な話をしているときに『ごめん、会社から電話が』って言ってすぐに切って、その後かけ直すこともメッセージを送ることもしなかった自分を思い出すと、B子はどんな気持ちだったか、今さら蒸し返してもつらいだけだと思いました」

と、暗い表情で答えました。

「仕事が忙しくて」と言っていたのは嘘で不倫相手との関係に没頭していた、と思われても仕方なく、インスタグラムの投稿がある以上はどんな言い訳も見苦しいだけで、明子さんはそれ以来ふたりとは連絡をとらないまま、三ヶ月が過ぎようとしています。

「インスタグラムをチェックしたのは、私に彼氏ができたかどうかを探るためだったと思います。

ふたりがそんなことをするなんてまったく想像していなくて、でも私の態度がおかしいから思いついたのですよね。

つくづくと、私は馬鹿なのだと思いました……」

彼との関係が不倫でなければ、お互いに独身の「普通の恋愛」なら、明子さんは隠すことなく最初から打ち明けていました。

知られたら反対されると想像するから黙っていたけれど、SNSの投稿からバレてしまい、ふたりへの対応もいい加減さが目立ち、最終的に遠ざけられます。

不倫そのものをA子さんは責めなかったといいますが、それ以上に「私たちとの関係がないがしろにされていることの寂しさ」を知らされたことが明子さんは悲しく、友人たちを大事にできなかったことを悔やんでいます。

「いま思えば、不倫ってその場しのぎというかタイミングが合うことがすべてで、彼との時間以上に優先するものなんてありませんでした。

でも、A子たちからすれば不倫なんてものに熱中して適当なことをされる自分たちを見れば、それはいい気がするはずはないと思います。私だってきっとそうです」

不倫に巻き込んだわけでは決してないけれど、それ以上に「おかしなことをしている自分」を見せてしまったことが、明子さんから挽回するエネルギーを奪っていました。

何をしたってふたりとの絆を大切にしなかった自分が帳消しにされることはなく、あがくより存在を消しているほうが、ふたりにとっては安心。

そう思う明子さんは、誰も投稿しなくなったグループラインを読み返しながら、ふたりからの接触を待っています。

不毛な関係が飲み込んだものは、友情という信頼でした。

後ろめたい関係に身を置けば、どうしても人には嘘をつくことになったりごまかしたり、を避けられません。

それは信頼を損なうことであり、やっているときはなかなか気づきませんが、我に返れば異常さが自分に返ってきます。

失われた友情をどうやって取り戻せばいいか、時間をかけて絆を大事にする姿勢を伝えていくしかありません。