品川ヒロシ監督(C)エンタメOVO

 累計発行部数650万部を超える大ヒット漫画を実写映画化した『OUT』が11月17日から公開となる。少年院を出所した伝説の超不良・井口達也(倉悠貴)が、千葉の暴走族“斬人(キリヒト)”と出会い、彼らと不思議な絆で結ばれたことから、激しい抗争に巻き込まれていくアクション満載の痛快青春活劇だ。監督・脚本を手掛けたのは、人気お笑いコンビ“品川庄司”(品川祐名義)で活動する一方、『Zアイランド』(14)、『リスタート』(21)など、映画界でも実績を積み上げてきた品川ヒロシ。自伝的小説を映画化した監督デビュー作『ドロップ』(09)とも縁があり、「僕の集大成」と語る本作の舞台裏を聞いた。

-主人公のモデルになった原作者の井口達也さんは、品川監督の『ドロップ』にも登場した幼なじみだそうですが、今回の映画化のきっかけは、井口さんご本人からの依頼だったとか。

 10年以上前、彼が原作漫画の元になる小説『アウト-不良の流儀-』を書いたときから「映画化してほしい」と言われていたんです。僕も実現してあげたかったんですけど、映画化するには製作費を集めないといけないので、そう簡単ではなくて。それが実現できたのは、原作を手掛けたみずたまこと先生が、人気作に育ててくださったおかげです。

-では、映画化が決まった時のお気持ちは?

 もちろんうれしかったですが、これを実写にするのは、なかなか難しいな、と思っていたんです。原作では、達也がずっと戦い続けているんですけど、映画にするにはどこかで区切りをつけなければいけない。その上で、2時間という枠の中で縦軸を作り、それぞれのキャラを立たせ、ひとつの物語にする必要がある。そこで今回は、単行本の5巻までに当たる、少年院を出所した達也と暴走族・斬人の出会いから敵対組織・爆羅漢(バクラカン)との戦いまででまとめました。ただ、原作は既に20巻を越えているので、ファンの皆さんは各キャラクターの関係性をより詳しく知っています。だから、その辺もある程度盛り込み、主要なキャラクターにはきちんと見せ場を作るようにしました。

-井口達也役の倉悠貴さんをはじめ、キャストの皆さんもハマり役で、原作の人気キャラを魅力的に演じています。中でも、斬人の総長“あっちゃん”こと丹沢敦司役の醍醐虎汰朗さんや幹部の安倍要役の水上恒司さんなど、これまでのイメージと異なる配役は新鮮でした。

 舞台版の「ハイキュー!!」を見たとき、醍醐くんの身体能力の高さに驚いたんです。あっちゃんはひょろっとして背が低く、一見弱そうなんだけど、実はものすごくケンカが強いというキャラですが、これだけ運動神経がよければ、そういうあっちゃんの人間離れした動きもできるだろうと。今までソフトなイメージが強かった水上くんは、体が大きいので、髪型やひげを作り込めば、要になれるんじゃないかと思っていました。

[caption id="attachment_1411809" align="aligncenter" width="430"] 『OUT』11月17日(金)全国劇場公開配給: KADOKAWA
2023『OUT』 製作委員会[/caption]

-長嶋圭吾役の與那城奨さん、目黒修也役の大平祥生さん、沢村良役の金城碧海さんも、グループの“JO1”で活動している時とは印象が全く違いますね。

 彼ら3人には、いくつかの役を交代で試してもらって、見た目や芝居を含め、それぞれが一番ハマる役に決めていきました。確かに一見、JO1とは思えませんよね(笑)。他のキャストもみんな、オーディションでイメージに合った人を選んでいます。ただ、役がハマったのは僕だけの力ではなく、体を大きくしたり、鍛えたり、それぞれが役作りを頑張ってくれたおかげです。

[caption id="attachment_1411810" align="aligncenter" width="430"] 『OUT』11月17日(金)全国劇場公開 配給: KADOKAWA
2023『OUT』 製作委員会[/caption]

-大きな見どころのアクションシーンも、それぞれ役者本人が演じていることがわかるように撮られていて、各キャラの魅力を引き立てています。

 僕は、ジャッキー・チェンが大好きなんですけど、ジャッキーはアクションをすべて自分でやっているんですよね。『OUT』では、さすがに全部とはいきませんが、なるべく本人にやってもらい、それが分かるように撮ることを大前提にしました。その分、みんな大変だったと思いますが、その必死さが映像に映り、リアリティーが生まれたと思います。

-マンガは絵さえ描けばどんなことでもできますが、それを忠実に実写化しようとすると、役者の負荷が大きくなります。この作品ではそういう部分もきちんと撮っていますね。

 あっちゃんがジャンプして、相手の顔をバシッと踏みつける、みたいな原作の象徴的なシーンは、多少難しくても、絶対に映像化しようと思っていました。「こんなのどうやったらできるんだろう?」というアクションを、みんなで試行錯誤して、「こんなの見たことない!」という映像に仕上げていく。それが今回目指したアクションの方向性です。せっかく映画にするんだし、風呂敷を広げて、もっと派手な「階段落ち」のようなアクションをやる、という選択肢もあったのかもしれません。でも今回は、それよりもできるだけ原作をリスペクトしようと。

-アクションシーンは見応えたっぷりで、大人数の集団戦も迫力満点でしたが、その分、撮影時の苦労も多かったのでは?

 大変でないシーンはなかったです(笑)。すべてのアクションシーンで、もう1日ずつ欲しかったくらいで。ただその分、「絶対に今日撮りきる。でも、納得しなければOKは出さない」みたいな気迫で僕は現場に臨みましたし、それがみんなにも伝わり、いい緊張感が生まれたんじゃないかと思います。

-そうすると、品川監督自身の中でこの作品はどういう位置づけになりますか。

 10年くらい前から、アメリカでインディーズのホラー映画を撮るのが僕の目標だったんです。そうしたら数年前、アメリカのプロデューサーから「アメリカで映画を撮ってみないか」という話がきて。そういうタイミングで、デビュー作『ドロップ』とも縁が深い『OUT』で、ぐるっと一回りしてまたヤンキー映画に戻ってきたことは、監督として僕が歩んできたこの14年間の集大成になったんじゃないかなと。ここで一区切りつけて、次のステップへ、という感じで、節目を飾る作品になったと思っています。

-お客さんにはこの映画をどんなふうに楽しんでほしいと思っていますか。

 僕は『戦国自衛隊』(79)や『セーラー服と機関銃』(81)、『里見八犬伝』(83)、『二代目はクリスチャン』(85)といった昔の角川映画が大好きなんです。友情も恋愛要素もアクションも入っていて、みんなでポップコーンを食べながら楽しめて、ちょっと泣けて、笑える、みたいなやつ。だから、この映画でもそういうテイストを目指しました。例えるなら、豚肉も牛肉も鶏肉もソーセージも入った、“うまいもの全部入りの鍋”みたいなイメージ。だから、皆さんもそんなふうに仲間とわいわい、気軽に楽しんでほしいですね。

(取材・文・写真/井上健一)

[caption id="attachment_1411811" align="aligncenter" width="430"] 『OUT』11月17日(金)全国劇場公開 配給: KADOKAWA
2023『OUT』 製作委員会[/caption]