年明けに新幹線で泣く赤ちゃんに対する周囲の反応や親の対応について、Twitterで議論が巻き起こった。

「泣く子には睡眠薬を飲ませればいい」という意見まで飛び出し、公共交通機関を利用する際のマナーとして、乳幼児用の睡眠薬を使うのはアリなのかナシなのか、論戦はますます過熱。

でもちょっと待って。そもそも赤ちゃん用の睡眠薬なんてあるの? 身体への影響は?

 

睡眠薬には呼吸が止まってしまう怖い副作用も

赤ちゃんへの睡眠薬投与について、「芸能人の○○さんが、飛行機で静かにさせるために飲ませたらしい」など噂話レベルで耳にしたことはある。だが、周囲の人間からは一度も聞いたことがなく、市販されているのも見た事が無い。

実際に、私たちが手に出来る赤ちゃん用の睡眠薬なんてあるのだろうか? 安全に与えられることができるのだろうか?

「かたおか小児科クリニック」の片岡正院長に話を聞いた。

「乳幼児用の睡眠薬は、病院の検査時などで使うことがあります。ただ副作用で呼吸が止まってしまうことがあり、医師や看護師の監視下で使うのが鉄則。飛行機や新幹線内の泣きやませのため、親が飲ませることはまったくすすめられません」

たとえ赤ちゃんに睡眠薬を飲ませたところで、すんなり眠ってくれるとも限らないのだとか。

「睡眠薬は脳に作用するので、頭がボーっとしたりふらついたりすることがよくあります。また眠りから目覚めた時、不快感のため、よりぐずりが激しくなる赤ちゃんも少なくありません。

『風邪薬を飲ませて眠らせればいい』との意見もありますが、用法とは異なる目的で薬を使うことなどもってのほか。万一与えたとしても、風邪薬に赤ちゃんをコテンと寝かせるような強い睡眠作用はない。むしろ中途半端な眠気から寝ぐずりがひどくなり、かえって手に負えなくなる場合も出てくるでしょう」

乳幼児への睡眠薬投与はハイリスク・ローリターン。「ぐずる赤ちゃんに睡眠薬」という話自体が都市伝説だと、片岡先生は続ける。

「ドラマなどで、誘拐犯が薬品のにおいをかがせて相手を気絶させるようなシーンが出てきますが、睡眠薬にはあのイメージがついているのかもしれませんね。けれど、飲ませればコロッと寝てくれて、効き目が切れると気持ちよく目覚められるような薬は存在しません。

乳幼児の睡眠薬は麻酔薬と考えるべきです。ほとんどの小児科は、患者さんが希望しても処方することはないでしょう。当院にも年に2~3回程度、問い合わせがありますが、危険性と有効性の話をして、処方はしません」

“睡眠薬で赤ちゃんスヤスヤ”は、文字通り夢物語だったのだ。