韓国旅行の楽しみ方が多様化し、日本からの旅行者の目がソウルや釜山以外の地方にも向き始めている今、韓国全土を歩き回っている韓国人女性ライターに、美食と美酒を誇る全羅北道の中心都市・全州(チョンジュ)の魅力を紹介してもらった。
今回は韓国独自の食文化、二日酔い解消スープの話題から。
前の晩、あえて深酒し、二日酔い解消スープの朝ごはん
前の晩は三川洞でマッコリを美味しく飲んだあと、ホン・サンス監督の映画『次の朝は他人』に出てきたソウルのバーの経営者が全州に出した店とLPバーをハシゴしてウイスキーを痛飲。
翌朝は軽い頭痛と胸やけとともに目覚めた。
しかし、二日酔いは想定の範囲内。全州は韓国に数ある二日酔い解消スープのなかでも、とりわけヘルシーといわれるコンナムル・クッパの本場で、それを楽しみにしていたからだ。
コンナムルとは全羅北道の名産品、大豆モヤシのこと。クッパは汁かけ飯のことだ。これを朝から美味しく食べるために、前の晩わざわざ深酒し、二日酔いでコンナムル・クッパの店に現れる日本人旅行者もいる。
今回は人気店のひとつ「サンベクチプ」を訪れた。この店に初めて来たのは2000年だ。当時の全州は今のように国内外の観光客が押し寄せる街ではなく、名物の全州ビビンパこそその名が知られていたものの、枯れた地方都市でしかなかった。
「サムベクチプ」もその頃は大衆食堂風の店だったが、鉄筋コンクリートの瀟洒な姿に生まれ変わっていた。
朝9時台、席は6割方埋まっている。家族連れが多い。若い女性客の嬌声も聞こえる。
朝から元気でうらやましい。二日酔いのおじさんが虚ろな目でスープをすすっていた時代は終わったのだろうか。
韓国南部の左半分(西側)に位置する全羅道は食べ物が美味しいことで知られている。肥沃な穀倉地帯を擁しているので、米が旨い。西側に干潟があるため滋養豊かな海産物も多く獲れ、天日塩も旨い。
韓国南部の右半分(東側)に位置する慶尚道が多くの大統領を輩出しているのに対し、全羅道は1997年に金大中大統領が誕生するまで、長らく政治的経済的に不遇だった。
発展が遅れていたため、1970年代は地元に働く場所がない。そのためソウルに上京する人が多く、飲食業に従事する者も少なくなかった。
料理上手が多いので、「全羅道の女性を嫁にもらうと幸せ」などと言われたりもした。ソウルの人気飲食店の経営者には全羅道出身者が多いのも周知の事実である。
コンナムル・クッパはそんな全羅道の歴史背景を象徴する食べ物のひとつといえる。
大豆モヤシは韓国でも日本でも食材としては脇役だろう。それが主役を張る料理が名物として成立しているところに全羅道の食の丹精が感じられる。
コンナムル・クッパのスープは店によって材料が違うが、ほとんどの店がイリコや牛肉、昆布などでとったダシを使っている。
あっさり系でありながらも旨味たっぷりのスープを夢中ですすっていると、ごはんが姿を現す。
塩味が物足りない人は小皿で添えられるアミの塩辛を足してもよいが、塩分が気になるなら、つきだしのキムチをごはんと一緒に食べるとよいだろう。
この日の白菜キムチは長く漬けられたもので、酸味と辛味と塩味のバランスがすばらしかった。
大豆モヤシはシャキシャキとした歯応えがよい。アルコール分解酵素のあるアスパラギン酸を多く含むため、二日酔い解消効果も期待できる。
豆モヤシは栄養価が高く、美容食としても知られているので女性にもおすすめだ。ビタミンCやAを多く含み、繊維質やアミノ酸も豊かなので腸をきれいにし、美肌効果もあるからだ。
全州には、コンナムル・クッパの人気店が数軒あり、人気を二分、三分している。
「サムベクチプ」以外に、「全州ウェンイ・コンナムル・クッパ」や「全州ヒョンデオク」も人気があるので、食べ比べするのもいいだろう。