「ドラマ版の最初のころに、場所にもまだ慣れてなくて、スタッフの声や気配、作業音などにビクビクしている猫たちのことを察して、北村さんがマイクを上から指し出す音声さんに“猫は視界から外れた上からの動きが怖いんだよ”って言ってくれたり、ほかのスタッフにも“大きな音を立てないで”って注意してくださって。

彼の提案で現場に“猫を撮影するための何ヶ条”みたいなものも張り出されたんですけど、あれはとてもあり難かったですね」

 

目線や鳴き声が欲しいときに効果的な方法とは?

そうした気遣いがあったから、猫たちも安心して自然な表情や動きを見せたのだろうが、とはいえ、ドラマ版の北村に抱き上げられたときのウインクなどはどうやって引き出したのだろう?

「あれはあなごが自然にやったことですけど、目線が欲しいときなどはいろいろな手を使いました。普通は上の方に目線が欲しかったら、私たちも猫じゃらしを猫の上の方で振るんですけど、あなごはとりわけ気配に敏感だし、敢えて目を逸らして猫じゃらしじゃない方を見るんですよ(笑)。そういう性格が分かっていたので、見て欲しい方の反対側で襖を開けてもらったり、小走りで走って音を立てたりして、目線をもらうようにしてました。でも、同じ音をずっと聞かせていると反応しなくなるんです。

だから、私が怪しい人みたいに“ひゃ~”とか“ひ~”とかいろんな声を出して。そうすると、あなた、いったいどうしたんですか?っていう表情をしたり、耳を動かしたりしてくれるんですね」

それでは、鳴いて欲しいときに鳴いてもらうためにはどんな手を?

 

「あなごは不用意にいつも鳴いていたんですよ。でも、必要なときに鳴いてくれるわけではないので、エサで釣りました(笑)。私がたまたま持っていたレトルト系のキャットフードがお気に入りだったんです。それをカメラの横でほ~らって見せてやったらニャ~!って鳴いてくれたので、ヤッタね! と思って。駆け引きに勝った気分でした(笑)」


さあ、これで『猫侍』の猫がなぜあんなに可愛いのか? どうしてあんな自然な表情を見せるのか? その秘密が分かったはずだ。

劇場版の『猫侍』にはこうして生まれた猫たちの奇跡のショットがさらにいっぱい。映画館でぜひチェックして、癒されてください。

『猫侍』公開中→[https://nekozamurai.info/]

 

映画ライター。独自の輝きを放つ新進の女優と新しい才能を発見することに至福の喜びを感じている。キネマ旬報、日本映画magazine、T.東京ウォーカーなどで執筆。休みの日は温泉(特に秘湯)や銭湯、安くて美味しいレストラン、酒場を求めて旅に出ることが多い。店主やシェフと話すのも最近は楽しみ。