(左から)マーク・ニールセンプロデューサー、ケルシー・マン監督 (C)エンタメOVO

 高校入学を控え人生の転機に直面したライリーの頭の中で新たな感情が現れる。人間が抱く感情たちの世界を舞台に描き、アカデミー賞で長編アニメーション賞を受賞したディズニー&ピクサーの映画『インサイド・ヘッド』(15)の続編である『インサイド・ヘッド2』が、8月1日から全国公開される。本作のケルシー・マン監督とプロデューサーのマーク・ニールセンが来日し、インタビューに答えた。


-世界中で大ヒットしているそうですが、製作中から手応えは感じていましたか。


ニールセン 作っている時は、観客が共感してくれるといいなと思いながら一生懸命仕事をしました。自分たちが見たいと思うような映画を作っていることに誇りはあるのですが、ピクサーという会社の壁の中で4年間かけて作りましたから、私たちは共感できるけど、果たして会社の外に出たときにはどうなのかという不安もありました。今、世の中に出て、いろんな人が共感してくれていることを知って、とてもうれしく思っています。


マン 全く予想外の、期待以上の成功です。


-9年ぶりの続編でしたが、続編を製作しようと思ったきっかけは? また、製作するに当たってプレッシャーはありましたか。


マン 「シンパイ」ということですね(笑)。あまり心配はしませんでした。


ニールセン 『インサイド・ヘッド』を作った当時は、シリーズにする気は全くなくて、あれで完結したと思っていました。ところが、 あの映画の監督で今はチーフクリエーティブオフィサーのピート・ドクターが、いろんな人から「あの映画が自分にインパクトを与えてくれて、感情について話せるようになった」とか、「親子で話をするようになった」「自分の感情を考えるようになった」というようなことを聞いたんです。あまりにもいろんな人からそういう話を聞いたので、ピートがだんだんと「もう1本作ってもいいのかな」と考えるようになって、ケルシーに「何かいいアイデアない?」と聞いたのが始まりでした。


マン 2020年の1月にピートから聞かれました。


-ライリーが成長して、 新しい4つの感情「シンパイ」「ダリィ」「ハズカシ」「イイナー」が出てきましたが、これらの感情以外に候補となったものはありましたか。


マン 人間にはいろんな感情があるのでアイデアはたくさんありました。けれども、ライリーの年代ではやはり自意識が過剰になってくるので、この4つを選びました。カットした感情の中にはすごく面白いものもあって、例えば「ヤキモチ」がありました。これは「イイナー」の双子の妹で、「ヨロコビ」が「あなたはどっちだっけ。どっちか分からない」と言うせりふがあったんですけど、リサーチをしてみたら、「イイナー」は人をねたむ感情とはちょっと違って、「私もあれを持っていたらいいのに」という気持ちだと分かったので、そちらを残しました。自分もライリーと同じ年齢の頃は、確かに「こうだったらいいのに」という気持ちがたくさんありました。


-今回はライリーの思春期がテーマでしたが、私も、自分の若かった頃を思い出して懐かしかったり切なかったりするところがありました。そう考えると、ピクサーアニメは、実は大人の観客をとても意識して作っているのではと思ったのですが、その辺りはいかがでしょうか。


マン 常に大人の観客を意識して作っています。私たちにもティーンエージャーの子どもがいますが、「オッケー、みんなで見に行こう」と言える映画があまりないんです。でもピクサーの映画だけは、おじいちゃん、おばあちゃんから孫まで楽しめる映画だと思います。多くの映画はある特定の年代の人や、ある特定のグループをターゲットにしていますが、マークも私も、どの年代の人でも楽しめる、家族全員が楽しめるものを作りたいと考えていました。ピクサーはそういう映画を作るスタジオです。だから私はピクサーが大好きです。

-今回来日するに当たって楽しみにしていたことはありますか。また、日本のアニメや日本関連のものでお気に入りのものがあれば教えてください。


ニールセン 今回が3度目の来日ですが、私は日本が大好きです。最初は、5年前に『トイ・ストーリー4』(19)の時に来ましたが、その時に日本と恋に落ちました。美しい街並みがあるし、歴史もある。本当に探るべきところがたくさんある素晴らしい国だと思います。また、スタジオジブリのものが大好きで、ピクサーとジブリは、長い間とてもいい関係を持っています。宮崎駿さんが何度かピクサーに来てくださって、お話をする機会もありました。ジブリの映画は必ず見に行くし、私が大好きなアニメです。


マン 私が初めて来日したのは、『モンスターズ・ユニバーシティ』(13)の時でした。今回もそうですが、宣伝ツアーの最後が日本でした。それが素晴らしいのは、滞在を伸ばせること。なので、今回は家族全員を連れてきました。東京と大阪と京都に行きます。私は再び来られてうれしいですし、初めて訪れた家族に日本のことを紹介できるのもうれしいです。17歳の息子がアニメのファンで、いろんなものを教えてくれるのですが、最近は、彼が教えてくれた「呪術廻戦」がいいと思っています。昨日来日したばかりなので、これから「呪術廻戦」のグッズが買える所に行きたいと思っています。どこかいいところがあれば教えてください(笑)。


-この映画を見終わった時に、これならライリーの成長に沿って「トイ・ストーリー」シリーズのように何本もできるのではないかと思いましたが、続きはありそうですか。


ニールセン 今のところプランはありませんが、「インサイド・ヘッド」の世界は、私たちが遊べるものだと思っています。この映画を作るに当たって、たくさんのアイデアが出てきましたが、カットしてしまったものがたくさんありますから、その中の幾つかが日の目を見ることがあるかもしれません。この映画の反応がすごくいいので…。何かいいアイデアはありますか?


-やっぱり、ライリーが恋をするとか…。


ニールセン なるほど。確かに続きを作るとしたらそうなるかもしれませんね。


-新しいキャラクターの形や色遣いなどで、何か気を付けたことはありましたか。


マン なぜか「シンパイ」はオレンジだと思いました。私は、どんな感情があるのかというリストを作ったのですが、それと同時に色のリストも作って、気持ちと色をマッチングさせてみました。すると「シンパイ」のイメージは、明るくて鮮やかな色なんです。反対に「ダリィ」は、だらんとしていて、あまり鮮やかな色ではない。鮮度が少ない色。何か聞かれても「別に」みたいな感じです。


-日本のファンに向けて、一言お願いします。


マン 日本の劇場で公開されるということで、うれしくてワクワクしています。私たちが心を込めて作った映画ですので、楽しんでいただいて、また自分のことも見てもらえたらなと思います。自分のことも考えて、自分の感情を違った視点から見られるようになってもらえたらとてもうれしいです。


ニールセン 日本公開を前にとてもワクワクしています。いろんな国で公開が始まっていますが、すごく反応がよくて、私たちはとても喜んでいます。この映画は家族全員で楽しめる映画になっていると思います。どんな年齢の人が見ても楽しめると思っていますので、アメリカの人たちが共感してくれたのと同じように、日本の人たちにも共感していただければと思います。


(取材・文・写真/田中雄二)