白蓮は、1911年、親子ほども歳の離れた炭坑王、伊藤伝右衛門との再婚のため、福岡県の飯塚に下ります。それは柳原家の経済的な事情からの政略結婚で、花子はこれを許すことができず一度は絶交してしまうのですが、後にそれぞれが歌人、翻訳家となってからも、多くの手紙を交わし、著作を送りあい、互いに高めあう存在となりました。

後に「筑紫の女王」と呼ばれた白蓮が、夫・伊藤伝右衛門に三行半をつきつけて、若い恋人・社会主義者の宮崎龍介の元に走った世に名高い「白蓮事件」は、白蓮が大正天皇の従妹であったということもあり、大正の世を騒然とさせた一大スキャンダルになります。

この事件を題材とした作品は多く、林真理子さんの『白蓮れんれん』(集英社文庫/2005年)は、宮崎家から提供された、700通に余る白蓮・龍介の往復書簡を参照して書かれています。
財産も身分も捨てて、大恋愛を成し遂げ、夫が結核で倒れた時期は、文筆で生計を支えた白蓮。一夫多妻制を認めていた時代に、これほど激しく情熱的に恋をして、歌を詠み、力強く生きていた女性がいたことに驚かされます。

村岡花子さんの評伝を読んでいると、それはもう決して「物語」ではなく、今の時代に繋がる面が多くあることに気が付きます。明治から昭和への歴史を、たくさんの女性たちの群像とともに知ることができ、私たちが今当たり前に享受していること……例えば、海外の翻訳された良書が読めることや、選挙に女性が参加できること、平和な環境でさえも、多くの人たちの血のにじむような努力の末、今、与えられているということを教えられます。

悲しみを表に出すことなく、決して希望を失うことがなかった「アン」の物語、そして村岡花子さんの壮絶な生涯に関連する本を、皆さん是非、読んでみて下さいね。

※参考
『アンのゆりかご 村岡花子の生涯』(村岡恵里/新潮文庫)平成23年
『花子とアンへの道 本が好き、仕事が好き、ひとが好き』(村岡恵理/新潮社)2014年
『モンゴメリ「赤毛のアン」への遥かなる道』(ハリー・ブルース著/橘高弓枝訳/偕成社)1996年
『白蓮れんれん』(林真理子/集英社文庫)2005年

 

 京都府在住の26歳。三度の飯より本が好きで、またそのレビューを書くことを何よりも愛している。毒のある本やミステリーが好き。主に「読書」の分野で記事を書いています。いつでもアワアワしているフリーランスのライターです。 Blog