出会いたくない女:「雪穂&美冬」
続いては、ミステリの王様、東野圭吾さんの『白夜行』『幻夜』(ともに集英社文庫)をご紹介します。否定説もありますが、『幻夜』は『白夜行』の続編なのでは?とも言われています。
両作に共通するのは「どん底からのし上がる女とそれを陰で支える男」という構図です。
『白夜行』は1973年、大阪で起きた迷宮入りした事件「質屋殺し」の被害者の息子「亮司」と容疑者の娘「雪穂」の19年間を追ったミステリです。
大学卒業後、雪穂は東京へ出て、ブティック経営に乗り出し、実業家として成功していくのですが、彼女の周りではいつも、不可解な凶悪犯罪が次々と起きていきます。
『幻夜』は1995年の阪神淡路大震災後に、借金返済を強いる伯父を殺してしまう「水原雅也」と、それを目撃していた「美冬」と名乗る女の、2000年の元旦までの5年間が描かれています。
二人は震災後、過去を振り払うように上京し、美冬は瞬く間に成功を収めていくのですが、そこには『白夜行』と同じく、事件と陰謀がうごめいていて……!?というストーリーです。
雪穂も美冬も、陶器のようなきめ細かな肌・アーモンド形の目・栗色の髪で、モデルのような容姿をした実業家なのですが、異常なまでの上昇志向で犯罪を犯すことも厭わないという冷酷な一面も。目をつけた男を骨の髄まで虜にし、手足のごとく使ってのしあがっていく様子は、まさにホラーです。
また、「邪魔」「気に食わない」などの理由で、自分の手は一切使わず、邪魔者を消していく所業も! 絶対に出会いたくない女です。
『白夜行』では二人の関係は対等ですが、『幻夜』は主従関係以外の何物でもありません。
上り詰める女と「愛する人と一緒になるため」と信じ、数々の犯罪に手を染め、ボロボロになっていく男……。このタイプの女性には、ただ出会わないで済むことを願うばかり……。
女のしたたかさ、非情さが怖いくらいに際立った作品です。