『ライバル』(2009年)

アイドルとは歌や楽曲はもちろん、ビジュアルやコンセプトを含めた総合芸術。極端な言い方をすれば、ある種“作られた”とも言ってよい世界観を持つのがアイドルなのかも知れません。では、アーティストとは何か?「歌がうまい、パフォーマンスがすごい」といった表面上のものではなく、本質の対極となる「本人意思による自己表現」によるところが大きい思います。

では、レールの上を走るだけにとどまらなかった、Berryz工房はアーティストに近い存在なのでは? それは近年のライブ・イベントのつくり方、衣装や企画などへのセルフプロデュースでも垣間見ることが出来ます。

ただ、「アイドルではなくアーティストだ」なんて野暮なことを言うつもりはありません。だって紛れもなくアイドルだから。アーティスト志向なのではなく、アイドルという枠の中で一体自分たちが何が出来るのかということを常に考えていたということ。自由奔放さを持ち味としながらも、安易なおふざけではなく、節度を持ち、常にアイドルとしての矜持を示して取り組む姿勢が窺えます。
 

「アイドル10年」という言葉の意味

『VERY BEAUTY』(2007年)

シングル35枚、ベスト含むアルバム14枚などの作品とそこに関する制作、プロモーション、イベント、全国ツアー…、諸々合わせると彼女たちがアイドルに費やしてきた時間の大きさはどれほどだったのか。思春期である10代の1年は20代、30代と比べれば途方もなく長いものであるということ。

単純な比較は出来ませんが、ロックバンドに置き換えるのなら、3倍、4倍くらいの密度があったのではないでしょうか。その長い長い時間は、小学生だった彼女たちが成人になる過程で自我を持ち、アイドルの既成概念を覆すような“次なるアイドルとしての形”を模索した年月ともいうべきでしょう。

『普通、アイドル10年やってらんないでしょ!?』(2014年)

 

こうして改めて並べてるみると、Berryz工房の魅力というのは、今のアイドルに求められているものとは全く逆行していることが解ると思います。言うならば、“DD(誰でも大好き)”と呼ばれるようなアイドルファンからは最も遠いところに居るアイドル。

しかし、独自の美学を持って取り組む姿勢は、アイドルであること以前に人前に立つ表現者のプロフェッショナルとして、時流に関係のない普遍的なスタイルです。それは、卒業・加入と言った話題や、努力・苦悩といったサクセスストーリーが注目されることの多い、近年のアイドルブームに投げ掛けるアンチテーゼとも言えるのかもしれません。

〈猫だって杓子だって名刺を作れば即アイドル〉そう歌うことが出来る唯一の存在。まさに「アイドルブームから最も離れた唯一無二のアイドル」の来春までの活動は今いちばん注目すべき存在であると言えるでしょう。