「今日も一日、大人と話さなかった・・」子育て中・育休中のママで、こんなひと言をつぶやいたことのない人はラッキー、もしくは少数派なのではないでしょうか?
以前に比べて子育て支援の必要性が叫ばれるようになった昨今でも、子育てをしているママは、子どもの世話の大変さよりも、その孤独によって苦しんでいます。
子どもを通じて新しいコミュニケーションが生まれることも事実ですが、それはあくまでも子どもあってのコミュニケーション。子どもを通じて知り合った人の多くは、あなたのことを〇〇ちゃんママとしか認識しません。
もっと自分として他人と話したい! と思っても、独身時代の友人とは生活時間帯も話題もズレが生じてきている、夫は仕事で帰りが遅い・・となると、ママの孤独な心はどうやって埋められるのでしょうか。
孤独を避けてママが向かうのは
多くのママは、孤独な時間を埋めるために、まずは地域の子育て支援センターや子育てサロンに足を向けます。
赤ちゃんと二人っきりで過ごすよりはずっといい、と考えるからですが、いわゆる子育て支援の場というのは、意外と神経を使うところだと、何人かのママから聞いたことがあります。
トイレに行くときなどはさすがに子どもを見ていてくれますが、たとえば子どもそっちのけで、ママ同士でおしゃべりが盛り上がってしまうと、なんとなく冷たい視線を感じることもあるのだとか。
もちろん、公共の場で子どもを放置すべきではありませんが、そのせいか、子育てサロンでは深い話はあまりできないというママもいました。
すべての子育てサロンに当てはまることではありませんが、他にも、子育て支援を目的とする場所でママが感じる緊張の奥にあるのは、「いいママだと思われているか」に始まり、子どもが泣き叫べば「家でちゃんと子どもを見ていないと疑われないか」といったことまで含まれるのではないでしょうか。
ママのための子育てサロンって?
同じ子育てサロンという言葉を使いながら、他の場所とは一線を画す子育てサロンが、埼玉県上尾市にあります。
NPO法人 彩の子ネットワークが運営する、上尾市つどいの広場「あそぼうよ」で、月に1回開催される「子育てサロン」(事前予約・保育付)がそれです。
彩の子ネットワークには20年近くの歴史があり、この「子育てサロン」も初期から存在していたそうです。特に決まった名称はないので、本記事内では“子育てサロン=子育て中のママが、ひととき子どもを離れて話をする場”という理解でお読みいただければ、と思います。
普段の「あそぼうよ」は、近隣に住む親子が遊びに来る、親子のための居場所ですが、子育てサロンのある日の2時間だけは特別。今まで子どもを他人に預けたことのなかったママも、託児デビューをして、ママたちの輪に加わります。
彩の子ネットワークの保育室は、赤ちゃん・子どもたちがのびのびと、その子らしくいられるように配慮されています。たとえば、預ける時に泣いてしまっても、泣けるのが大切と受け止めてもらえるので、ママは安心して預けられます。
アドボケーター(日本語では権利擁護者、代弁者などと訳される)として関わるのは、彩の子ネットワークの相談室担当の渡邉寛さん。
渡邉さんは元文芸評論家という、子育て支援の現場に関わるには一風変わった経歴の持ち主ですが、渡邉さんにかかれば、イヤイヤ期の子どもの言動もまたたく間に愛あるメッセージに翻訳されてしまいます。
ママたちの輪のなかで、口数少なに耳を傾けてくれる渡邉さんの存在に、多くのママたちが助けられてきたと、2年前からの参加者竹本有希さんは言います。
「渡邉さんは、“子どもはいつも一所懸命。生きているだけでマル”と言ってくれるんです。そして、母である私のことも、子どもと同じように、ありのままを受け止めてくれる。
渡邉さんと話していると、自分自身ですら気づいていなかった本当の気持ちに気づくことがあります。私はこうして欲しかったんだ、こうしたかったんだって。渡邉さんと話すことで、新しい自分に生まれかわる感じさえするんです」