「発達が気になる子」を育てるうえで、子どもをうまくサポートできずに親が罪悪感を感じることは多々よくあります。
自閉スペクトラム症の3人の子どもを育てる外科医のちっちさんは、「実際に子育てをしていて、そうした罪悪感は親子にとって、悪影響しかありませんでした」と話します。
子どもの満たしようがない要求を満たせなかったことで親が消耗してしまい、本来、子どものために割くべき労力を損なってしまうからです。
発達障害に限らず、子育ての困りごとは、「愛情を持って適切な対応をすればうまくいく」とよくいわれます。しかし、こうした愛情論こそが無自覚的にも親を追い込んでしまうのかもしれません。
今回は、ご自身の経験をもとに、“普通の親”が子育てと向かい合う方法をまとめた書籍『発達障害の子を持つ親の心が楽になる本』からご紹介します。
1:理想を追い求めるのをやめたら楽になる
【よくある話】愛情をかければ素直で賢い子に育つ
【ところが…】『無理。何ひとつ思い通りにいかない』
よくいわれる「愛情を持って育てれば、素直で賢い子に育つ」「子どもは育てたように育つ」。
実際には、ちっちさんのお子さん(長女)は、生まれたときから、なかなか眠らず、泣き出したら止まらない…大きくなってもそれは続き、「環境」を整えても、ほとんど意味がなかったといいます。
「こうでなくては!」と考えすぎていたときは、親も子も身動きがとれなくなっていました。寝やすいように介入したうえで、それでも寝ない場合は、開き直って、親のタスクをこなすようにしました。
子どもと一緒にごみステーションに行き、親のタスクを減らすことでイライラが溜まりにくくなったそうです。親の負担になる部分を削ぎ落とし、子どもの行動が変わらなくても消耗しないようにすることです。
2:何をしてもうまくいかないときでも楽になる考え方
【よくある話】対応や介入が最適なら事態は改善する
【ところが…】最適なはずなのに改善しないとドツボにはまる
最適な対応をうまくやっても、体調などさまざまな事情で事態が改善しないことはあります。そんなときは本当に心が揺らいでしまうもの。
「今のどんな対応や介入も効果がなく、成長しなければ改善しないことも多いのだ」と割り切ります。時間の経過を味方につけるのです。わが家の場合、幼稚園から小学校低学年の間は大変でしたが、中学年~高学年になると、困りごとが徐々に減りました。
例:環境調整のためのグッズを取り入れた場合
⃝使わない→態度を見つつ、どのように使うかを考える。
⃝嫌がる→その介入をやめ、どの点が嫌だったかを考える。
⃝嫌がらず、実際に使ってみたがうまく機能しない→介入自体は続けつつ、相性を考える。
「1回目でうまくいく」という幻想を捨て、淡々とPDCAサイクル(※)を回します。
※Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)の仮説・検証型プロセス
3:食事のこだわり、こうすれば親も子も毎日が楽になる
【よくある話】子どもには栄養&愛情たっぷりの手料理を
【ところが…】苦労してつくっても子どもが手を付けない
なんとか頑張ってつくっても子どもが手を付けない、という悲しい事態はよく起こります。
私が医師として栄養について意識しているのは「栄養のバランスは数週間単位でとれていればいい」ということです。手づくりであることにもこだわっていません。本人の食の好みに合わせて惣菜や冷凍食品、外食を利用していくことです。
これらの食品は味が安定しており、食材の大きさなども均一化されていて、抵抗なく受け入れることができるようです。
偏食による栄養バランスの偏りには注意が必要ですが、食べられるものが限られやすい子どもの場合は、無理に栄養バランスや無添加に固執すると親も子も疲れ果ててしまいます。
特に「発達が気になる子の子育てでは“親側の余裕”が一番大切」とちっちさん。まず親御さんが楽になることで、家庭での緊張感が減り、結果的に子どもの人生も楽なものになっていきます。
著者:外科医ちっち
現役外科医。趣味は読書。のんびり40代。13歳娘、11歳息子、7歳息子、それぞれ自閉スペクトラム症。妻は元看護師。多くの方に発達障害のことを知ってもらうことで、皆が生きやすくなることを目指している。X(旧Twitter)のフォロワー数は約1.7万人(@surgeontitti)。ブログ読者は約4,000人。