久々に格闘技の熱を感じさせた、さいたまスーパーアリーナだった。2月26日・UFC144のことである。 3年半前に開催されたUFC88アトランタ大会に取材に入る機会があったが、この時は公開計量に5,000人を越えるファンが集っていたのに驚いた。カードごとにファイターがステージに上がり、計量を行う。その後、ふたりがファイティングポーズで向き合って、フォトセッションとなる運びだが、これがまたすごい盛り上がり。大会前日からアメリカのファンたちは、UFCという祭りを満喫しているのだった。
前日には公開計量に2,000人もの観客が集い、大会当日も約2万人もの観衆を飲み込み、冬の時代と言われて久しい日本の格闘技界が、UFCによってかつての熱を呼び覚ましたと言ってもいいだろう。それほどにさいたまスーパーアリーナは浮き足立った期待感とピーンと張り詰めた緊迫感に包まれていた。
米国とは異なり、日本のファンはアンダーカードからしっかり観戦する。UFC88では、アンダーカードでは会場はガラガラ。満員の熱気に包まれたのは、メインカードを含む3カードほど。しかも、30秒足らずスタンドの攻防で、お見合いが続くだけで、大音量のブーイングがこだましていた……。ところ変わって日本では、間合いを掴む静かな立ち上がりもオクタゴンに集中し、タックルの攻防やグラウンドでのせめぎ合いに、惜しみない拍手を送る。事実、2/26のさいたまスーパーアリーでは、アンダーカードの山本”KID”徳郁のバンタム級戦、五味隆典のライト級戦からさいたまスーパーアリーナは熱気ムンムン。ライト級のアンソニー・ペティスがジョン・ローゾンを左ハイキックでKOすれば一気にボルテージが上がった。フェザー級タイトル戦線に躍り出た日沖発が、的確な打撃と流麗なグラウンドテクニックを見せれば息を呑み、マーク・ハントの豪腕が発揮されれば沸きに沸いた。クイントン・”ランペイジ”・ジャクソンが懐かしのPRIDEのテーマで入場し、スラムを見せれば、完全に出来上がっていた。
そして、何よりも、メインイベントである。フランク・エドガーとベン・ヘンダーソンのライト級タイトルマッチは、日本での知名度の低さ、そして大会場では伝わり辛い軽量級のカードという不安を吹き飛ばす、熱狂を呼んだ。
エドガーが出入りの激しいステップワークからボクシングテクニックを披露しながら、タックルを繰り出せば、ヘンダーソンはヒザ蹴り、ローキック、ミドルキックを当てつつ、驚異的なバランス感覚でテイクダウンを許さない。5分5ラウンド動き続ける王者・エドガーのスタミナと、25分間にわたり隙を見せない挑戦者・ヘンダーソンの集中力、そして両雄のタイトルマッチを戦うにふさわしい高度なテクニックは観る者を魅了した。ラウンド間のインターバルでは、会場から拍手が自然発生したのだった。
さいたまスーパーアリーナに集った格闘技好きは、まさにおなかいっぱいのことだったろう。五味や山本KID、秋山成勲ら日本人ファイターを目当てで観戦したファンたちも、タイトルマッチで見せた日本の総合格闘技とは異次元のMMAのレベルの高さに酔ったはずだ。それは逆に、ミドル級タイトルマッチ挑戦を経た岡見勇信が逆転KO負けを喫したり、日本のビッグネームたちが(日本では無名の)ファイターに敗れる現実を突きつけられ、トップクラスのコンプリートファイターぶりもまざまざと見せ付けられる結果となった。
ただ、日本格闘技界には強い者を無条件で認める度量の広さと、支持するファンの気概がある。かつてのオランダ王国だったK-1も、ロシアとブラジルの2大王国が激突したPRIDEも、日本のファンは熱烈に支持した。
大会終了後、デイナ・ホワイト社長は「ここ10年、日本についていろんな噂を聞いていたが、こんなに素晴らしいイベントを開催することができた。メディアの中には『フルハウスになればラッキーだ』というところもあったけど、これだけのファンが来てくれた。本当に素晴らしいイベントだ。日本にはまた来ます」と手応えを口にした。黒船・UFCが、日本格闘技界の新たな可能性を示したと言っていいだろう。
2月28日(火)22:00~24:30、WOWOWライブにて放送。