子育ての本当の目的は?ママの気持ちも大切に
竹中:ミルクと母乳、本来はどちらも「メリット」しかないんじゃないかな。
――「メリット」しかない?
竹中:話は少しそれますが、ミス日本の方とお話させていただいた時に「ミス日本に選ばれて、良かったことと悪かったことって何ですか」って尋ねたことがあるんです。
そうしたら「取材でもみーんなに同じことを聞かれるんだけど、悪いコトなんてないんですよ、実は」って、キレイなお顔でおっしゃるのね(笑)
本当は“いいことずくめ”なことなのに「メリット」と「デメリット」の両面を知っておきたい。あるいは発信する側が、どちらも伝えておきたいという気持ちがあるんでしょうね。
これはミルクについても、母乳についても同じなんじゃないかな。本来は“いいことずくめ”のはずなのに、そうじゃないことも一応言っておかなきゃ悪いわっていう意識が働くのかもしれません。
――それは、育児サークルなどでもあるかもしれません。「母乳ってココはいいけどココはダメなの」とか「ミルクってココはいいけどココはダメなの」とか、お互いに「デメリット」も付け加えて予防線を張るような・・・
竹中:ミルクか母乳か、という問題が、ものすごくセンシティブなものになってしまっているから、余計にそうなのかもしれませんね。
世界的な話をすると、卒乳の世界平均って4歳だそうです。そしてユニセフは、開発途上国で「可能な限り2歳以上まで授乳しましょう」と指導しています。それはなぜか。
おっぱいをやめた瞬間から、その子の飢えが始まるからです。早く死んじゃう可能性がより高くなる。母乳を飲めるかどうかが、生死を分けるんですよ。
だから逆に、日本のように選択する余裕がある環境の場合は、ほんと言うと、どっちでもいいんですよね。ミルクでも、おっぱいでも、ヤギの乳でも、それこそイモの粉だって。
「元気に育つ」のが目的で「母乳で育てる」のが目的じゃないんだから。
――「母乳で育てる」のが目的じゃない・・・
竹中:【母乳110番】へのご相談でも「完母になりたい」とか「完母じゃなくて」とか、すごい思い詰めたお電話が多いのも最近の特徴なんですが、“完母”という言葉が独り歩きしている気がします。
“完全母乳”なんて言葉は、以前はありませんでした。
「完全母乳でやってきたんです」っていうママも、多いですよね。
こだわるのは悪くないんですよ。こだわらないと、例えばトラブルを乗り越えたり、あるいは周りからのいろんな、自分の意志とは異なる提案をやり過ごしたりできないから、こだわっていないと続けられない側面もありますものね。
でも、本当の目的も、思い出してほしい。
我が家は子どもがアトピーだったのですが、仲間のママが、子どもの顔をツルツルにするのに必死になって、あらゆる民間療法に手を出していたことがあって。彼女に「顔をツルツルにするのが目的じゃないでしょ、健康で、元気に育つことが目的でしょ」って言ったら「それ、忘れてた!」ってハッとされたことがありました。
みんな一生懸命だから見失いがちだけれど、“完母”で育てるのが目的なんじゃないんですよ。
大切なのは「子どもが元気に育つ」こと。そして「ママの気持ち」です。
――子どもが健康に育つことと、ママの気持ち。
竹中:最近は特に、ママがすごく責められるでしょう?
「どうして風邪引かせた!」「出かけたからだろう!」とか。しつけでも、健康でも。
産んだ瞬間から、ママ“だけ”が、なんでこんなに、いろいろ背負わされなきゃならないのか。責任がママ“だけ”にのしかかってきて、すごく重くなる。私も「なんで?私のせい?」って、すっごい不条理を感じました。
実をいうとね、この「どっちでもいい」というのは、私も、ある助産師さんにかけていただいた言葉なんです。
というのも私、子どもが生まれてすぐは「産後うつ」のようになってしまって、いわゆる母子の初期接触ができず、2日間、抱っこもできずに離れて過ごしました。やっと授乳が始まったと思ったら赤ちゃんもおっぱいをうまく飲めなくて、何カ月も乳房トラブル続きで・・・ようやく母乳育児が軌道に乗ったと思ったら、1歳で子どもの方から背中を向けて寝られてしまって、その時点で断乳。いま思えば食への興味が早かったんだと思うんですけど。
それで私、助産師さんにワァワァ泣きながら訴えたんです。「こんなに頑張ってやってきたのに、どうして?」って。そうしたら言われたのが、
「どっちでもいいじゃない?子どもが決めてくれるのよ」
「どっちでもいい」と言い切られた時は、私あまりにビックリしてポカ~ンとしてしまったんですが(笑)
つまり育児って結局「答え」がない。そういうことなんだと、その時、気が付きました。
ーー育児には「答え」がない?どういうことでしょうか。