イラスト:上田 曜子

夫が浮気している事実に気がついたけれど、いろいろな事情があって離婚できない。

このまま夫婦関係を続けるべきか、それとも離婚に向けて動き出すべきか、ある女性は悩み続けた果てに「なりたい自分」を見つけました。

浮気を続行する夫への気持ちや状況への葛藤など、この女性はどう乗り越えていったのでしょうか。

誰よりも親しげな「夫の部下」

Aさん(35歳)は、結婚して10年になる夫と小学生の娘さんがひとりいます。

仕事は自宅でデザインを請け負う仕事をしており、毎月15万円ほどの収入を得ていました。

市内のスーパーに勤務している夫は、そのとき新しくオープンする予定のお店にかかりきりで、帰りの遅い日が続いていました。

以前から、夫はAさんに「家でできる仕事ならいいけど、家のこともちゃんとやってほしい」と自分は家事に協力できないことを伝えていたそうです。仕事柄それは仕方ないと思っていたAさんでしたが、本当は帰って娘の相手もしないままお風呂に入って寝てしまう夫には不満を抱いていました。

そんなある日、Aさんは夫に言われてオープンした新店に娘と出かけます。

規模の大きなお店だけあって従業員の数も多く、たくさんの人に話しかけられながら次々と指示を与えていく夫の姿は、Aさんには新鮮で「ああ、プレッシャーのある大変な仕事なんだな」と帰宅してすぐに寝てしまうことにも納得したそうです。

そんな中、20代後半くらいの若い女性が、夫に近づいていくのが見えました。

その女性に声をかけられたとき、

「夫の顔がね、明らかにほかの人と違うのよ。嬉しそうだったし、あんな顔私にもしないんじゃないの? ってくらいデレデレしているの」

女性は、明らかに近すぎると感じる距離で夫と話し、ときおり腕を叩いたりして楽しそうに笑っています。それに応じる夫も、ほかの従業員のときと違って時間を気にする様子もなくいつまでも応えていました。

そんなふたりの姿を目にして、Aさんの胸はざわつきます。

これまで夫が働く姿はあまり見る機会がなかったけれど、そういえば多くの部下を抱えているのであって、親しい女性がいる事実、自分と話すときより楽しそうに見える事実、そんなものがぐるぐると頭の中に「私の知らない夫」を植え付けました。

その場を立ち去ろうとしたとき、その女性がこちらに気が付きます。

はっとした表情で夫から離れた女性は、Aさんをじっと見るとわずかばかり頭を下げて、立ち去っていきました。

そのとき、夫がAさんたちに気が付き、慌てたように「来てたのか」と笑顔を見せるのを、Aさんは冷めた気持ちで見つめていたといいます。

LINEで発覚した夫の浮気

Aさんが夫の浮気に気がついたのは、LINEの通知だったそうです。

「日曜日のお昼だったんだけど、ご飯を食べ終わって夫がテーブルにスマホを置きっぱなしにしてトイレに入ったのね。

そのときLINEの音がして、ふと画面を見たら「○○」って女性の名前で『今日は会えないから寂しいな。早く明日にならないかな』って。ハートマーク付きで」

「血の気が引いたわよ」と話すAさんでしたが、LINEの相手として真っ先に思い浮かんだのは、あの日スーパーで見た若い女性でした。

そのときは夫には何も言わず、Aさんは夫が寝ている間にこっそりスマホを調べます。

すると、LINEにはさっきメッセージを送ってきた女性との会話がしっかり残っていました。

「お店がオープンする前からそういう関係だったみたい。公休を合わせる相談とか、仕事が終わったあとの待ち合わせ場所とかいろいろあって」

Aさんは、そのLINEの内容を思い出すと今でも苦しくなる、といいました。

「だって、『さっきのホテル、ご飯が美味しかったね』とかあったのよ? いったい何時間一緒にいるのか、その間私はずっと娘とふたりで家にいて……」

激しい口調で話すAさんでしたが、その浮気相手と夫が会っていたのはたいてい夫が「トラブルがあったから行ってくる」など休日にも関わらず外出していたときで、“騙されていた自分”に気がついた絶望感と、家のことをすべて自分に押し付けて別の女性と肉体関係を持つ夫への憎しみとで、猛烈な怒りとたたかっていたのでした。

離婚できない事情

離婚を考え始めたAさんでしたが、夫に切り出すことができないのは

「私の稼ぎだけでこの子を育てていくのは難しいし、頼れる親戚もいない」

という現実の厳しさを想像したからでした。

フリーランスとして働くAさんの毎月の収入は、多くても15万円程度ととても娘と二人暮らしができる金額ではありません。

夫の扶養内で収まるように調整してきたので、これまでもっと稼げそうなときがあってもみずからそのチャンスを捨ててきた、といいます。

また、実家がかなり遠くの県にあり、結婚して以来親やきょうだいとも疎遠になっているので、こちらでは何かあったときに娘をお願いできる親戚もいません。

いま離婚しても、娘とふたりで住むアパートすら自分の名義で契約できるかどうかあやしい。

そして、夫がもし親権を主張すれば、たとえこれまでかわいがってきた実績がなくても、お金もあって元気な義母もいる夫の言い分が通る可能性が高い。

そんないろいろな現実が、Aさんを家庭に引き止めていました。

もとより夫への愛情も信頼もすでに失っていて、浮気がわかって以来、休日に用事を作って出ていこうとする夫の背中を見ながら「またホテルに行くんだろうな」と暗い予感を抱える日々でした。

「どうすればいいんだろう。このまま夫婦としてやっていくのは無理だし、だけど離婚することもできない。

これからどうやって自分は生きていけばいいのだろう」

そんな苦しみに、Aさんは押しつぶされそうになっていました。