「牙狼の世界をアジアのみならず世界に広げていきたいという思いが強くなりました」
先日行われた東京国際映画祭で劇場版『媚空―ビクウ―』(11月14日公開)が上映された際、主演の秋元才加は舞台あいさつでこう口にした。
劇場版『媚空―ビクウ―』は、テレビ東京系での放送開始から10周年を迎えた人気特撮アクション「牙狼<GARO>」シリーズの最新作。人間を脅かす“魔獣ホラー”と戦う“黄金騎士ガロ”の活躍を描いた物語で、これまでにテレビや劇場版、スピンオフなど合わせて10作品以上が製作されている。大人向けのハードなストーリーに加え、国内最高峰のCGとアクションを組み合わせた迫力満点の絵作りが特徴だ。
シリーズの主役となる黄金騎士ガロこそ男優が演じているものの、共に戦う“魔戒法師”役などで、これまで数々のアクションヒロインも生み出してきた。2012年の劇場版『牙狼<GARO> ~蒼哭ノ魔竜~』では、松坂慶子までもがワイヤアクションに挑戦している。
秋元演じる媚空はもともと、14年のテレビシリーズ「牙狼<GARO> ―魔戒ノ花―」に、魔戒法師の1人として登場。クールで一匹狼的なキャラクターが強い印象を残した。
とはいえ、劇場版の話を聞いた時は、少々驚かされたのも事実。テレビシリーズでは数多いサブキャラクターの1人であり、登場したのも物語終盤の数エピソードに過ぎなかったからだ。果たして、主人公として映画一本を背負って立てるものだろうか…。
だが、そんな心配は杞憂に終わった。既に各種ニュースなどで報じられている通り、撮影前にジムに通って体を鍛え上げた秋元は、全編にわたって格闘からワイヤ、VFX合成まで、テレビシリーズを上回る多彩なアクションに挑戦。クライマックスではCGを駆使した華麗なビジュアルの中で、劇場版にふさわしい圧倒的なバトルを繰り広げた。約80分、見応えのあるアクション作品を作り上げ、その実力を十二分に示した。
高校時代はバスケットボール部に所属、合気道もたしなむなど、もともと身体能力の高い秋元。加えて、スクリーンに映えるりりしい顔立ちとすらりとした立ち姿もアクション向き。これまでもたびたび、映画でその才能の片鱗を示してきた。06年にAKB48に加入後、09年の『聖白百合騎士団』で映画初主演。女子校を舞台にしたガンアクション満載の作品で、襲い掛かる男どもを大型の対戦車ライフルで一掃して見せた。同年の『ハイキック・ガール!』では、主演の武田梨奈と戦うセーラー服軍団のボス。『ウルトラマンサーガ』(12)では、AKB48のメンバーが演じる防衛チームのリーダーをはつらつと演じた。
こうして積み重ねたアクションの経験が、劇場版『媚空―ビクウ―』で本格的に開花。その達成感が、冒頭の言葉につながったのではないか。舞台あいさつで、客席をしっかりと見詰めて立つ姿からは、そんな覚悟と充実感がにじみ出ていた。
フジテレビ系列で放送中の「別れたら好きな人」(15)をはじめ、テレビドラマやバラエティー番組でも幅広く活躍する秋元。さまざまな顔を持ちながらも、劇場版『媚空―ビクウ―』を見ると、「もっとアクションに挑戦してほしい」と期待せずにはいられない。
「牙狼の世界をアジアのみならず世界に広げていきたい」
その言葉がいつの日か実現することを楽しみに待ちたい。
(ライター:井上健一):映画を中心に、雑誌やムック、WEBなどでインタビュー、解説記事などを執筆。共著『現代映画用語事典』(キネマ旬報社)