© 2012 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved. 写真提供:森美術館

村上隆の最力作が見られる貴重な展覧会

10月30日に開催された記者会見には多くの報道関係者が詰めかけ、会場は熱気に包まれました。森美術館館長の南條史生氏、ゲスト・キュレーターの三木あき子氏に続き、特別企画協力の辻惟雄氏の挨拶がありました。

「何でもいいから好きなことを書いてほしい。こちらは助手を使って適当に対応するから」という村上氏の気楽な提案から始まった「ニッポン絵合わせ」。

連載を重ねる中で村上氏に気合いが入り、結果として今回の《五百羅漢図》が完成。
辻氏は「めっぽう元気で力強い。そしてユーモラス」と《五百羅漢図》を絶賛、「村上さんの代表作を見るためには世界一周旅行しなければなりません。そのうちの最力作が見られることを心から喜びたいと思います」と締めくくりました。

続いて村上氏が、辻氏との関係を交えながら、《五百羅漢図》完成までの経緯を語りました。「現代美術は日本では全く興味を持たれない、非常にニッチな芸術の領域だと思っています」と問題提起する一方、「《五百羅漢図》も、こうやって完成すれば一つの名物になってよかったと思います」と笑顔を見せました。

モチーフは“震災”で触れた“生と死”

質疑応答では、村上氏への質問が飛び交いました。

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「村上隆の五百羅漢図展」の出展作品に見られるドクロのモチーフ。これについて、村上氏は「『何も語らない』がテーマ」といいます。「パッと見『死を想う』のようなものを感じるかもしれませんが、実は何も語っていません」。

また、《五百羅漢図》を描いた理由の一つとして、村上氏は東日本大震災に言及しました。「震災のドキュメンタリーを見ながら、宗教の発生の瞬間を見たような気がしたんです」。

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震災で両親を亡くした子どもに、大人たちは「ご両親が空から見ているから大丈夫」と声をかけます。その言葉を信じて生きるしかない子どもたち。その言葉で子どもが救われると考える大人たち。

ここに「お話としての方便」の必要性を感じた村上氏は、宗教と芸術の関係に対する関心を深めました。こうした動機に、辻氏との連載やカタールでの展示の機会が加わって、《五百羅漢図》が描かれることになりました。

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もっとも、村上氏の《五百羅漢図》には重苦しい雰囲気がありません。表現されているのは、ドクロにも通じる「無」。だからこそ、辻氏が言うような「めっぽう元気で力強い。そしてユーモラス」な楽しさが感じられるのでしょう。村上隆という一人の現代美術家を通して、現代アートの本質を考えさせられる展覧会でした。

「村上隆の五百羅漢図展」開催概要

【会期】2015年10月31日(土)-2016年3月6日(日)

【会場】森美術館(東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階)

【開館時間】10:00-22:00(火曜は10:00-17:00)

*11/3(火・祝)は22:00まで

*いずれも入館は閉館時間の30分前まで

*会期中無休

【入館料】一般1,600円 / 学生(高校・大学生)1,100円 / 子供(4歳~中学生)600円

「村上隆の五百羅漢図展」公式ホームページ詳細

家庭教師を本業とするライター。アート、教育、地域情報を軸に、広く文化全般を対象に執筆。まじめに教材作成をする一方、サブカル、妖怪、アングラ、フェチなどに関連するイベントを一眼レフ片手に取材します。「好きな人を応援する」がモットー。