禁断の恋!? ワンナイト、BLに百合…シチュエーションも色々

浮世絵の始祖・菱川師宣の春画は、モノクロームの墨摺に手彩色。《恋のはなむらさき》には町民夫婦、公家のカップル、武家の若殿と奥女中など多様な人物を登場させて、色の道は普遍と説き、その後の典型的なスタイルを確立しました。女性が積極的にも見えます。

菱川師宣《恋のはなむらさき》天和3(1683)年頃

「江戸時代、本当のモテ男は自分から声を掛けにはいかないので、女性から仕掛けることも普通にありました。社会の階層は厳しく分かれていますが、建前を守りつつ裏ですり抜ける通路も用意されていた。例えば建前上、商家の娘は武家に嫁げませんが、いったん武家の養女になれば、そこから嫁ぐことはできます。
ワンナイトラブから嫁入りまでさまざまな恋愛/性愛の形があり、ジェンダーや社会階層が細かく分かれている世界だったからこそ、多彩なシチュエーションが描かれたんですね」

「春画はサイズ的にも手元で、そして個人で見ることが多かったと思います。カップルが床入り前に気分を高めるために使っている様子を描いた春画もありますが、本当にそう使われたかどうかはわかりません。版元の販促かもしれないし(笑)」

奥村政信《閨の雛形(ねやのひながた)》寛保2(1742)年頃

「錦絵」と呼ばれる多色摺を発展させた鈴木春信は、中性的で少女漫画のような絵柄。

「ジェンダーの考え方が、西洋のキリスト教的価値観が浸透していく近代以降とはだいぶ違いますね。成熟していて一人前の強い立場にある者が、より未熟な者をかわいがる行為がごく普通にあり、相手は同性でも異性でもいいんです」

鈴木春信《風流艶色真似ゑもん》明和7(1770)年

春画は「笑い絵」とも呼ばれ、ユーモラスな表現も好まれました。「《風流艶色真似ゑもん》は、読者が小さいまねゑもんの視点で他人の房事を覗き見る、感情移入できる仕掛けが施されています。春信以外に見られない表現です」

鈴木春信《風流艶色真似ゑもん》明和7(1770)年

「鳥居清長の《袖の巻》はグラフィックとしてすごくうまい! 春画には柱に貼ったり掛けたりする「柱絵」という判型がありますが、顔と性器を主役として同じ大きさで正面から描くという春画に特徴的な描写を踏まえながら、こうした極端に細長い画面を効果的に使っています」

鳥居清長《袖の巻》天明5(1785)年頃

なかには脱臼しそうなポーズもあり、役者絵や武者絵では描けない人体表現を、絵師はイマジネーション豊かに楽しんだのではないでしょうか。