撮影:tama

「例えば仕事が暇になると、わかりやすく堕落した生活になったりして、『意外と仕事人間なんだな』って気付かされたり。すごく嫌なことがあっても、お芝居している瞬間は忘れていたり。俳優という仕事に救われているところはあると思います。

まあ、『なにを考えているのか』と言われても、具体的なことは出てこないんですけど。でも、言葉にならない自分の思いを信じて、自分はとにかく歩いていかないといけないのかな、と」

――迷ったときは、自分の思いに立ち返る、と。

「自分から『お芝居って楽しいな』と思っているわけじゃないんですけどね。気付かされるんです。お芝居をしていて、『俺、いま、めっちゃ楽しいな』 と、たまに思うくらいで。舞台稽古とか、本当に嫌いなんですけど(笑)、でも稽古をしていると、たまにそういう瞬間があるから、多分やれているんだと思う んですけど」

――そんな田中さんが次に挑むのが、舞台『夢の劇 –ドリーム・プレイ-』です。いま、まさに稽古中かと思いますが、今回は俳優としてどんなものを求められているのでしょうか?

「戯曲として、すごく難しい舞台です。それをひとつのエンタテインメントとして作っているなか、ひとりも納得してお芝居をしている人がいないんじゃないかと思うほど、台詞が難解で。ひとつの人物をやっと作れたと思ったら、また別の役になる、みたいな。なんでこんな難しい作品を選んだのかなぁっていう、これは白井(晃)さんへの愚痴(笑)。

いまよりあと2コくらい深いところに、この作品をやる意味があるような気がしているんですけど、そこまでどうやっていけるのか。本番まであと10日しかないんですけど(取材日は4月2日)、10日であと2コ潜れないでしょう、と。それこそ、夢が醒める前になにか掴みたいな、という。もう1ヵ月くらい稽古しているんですけどね(苦笑)」

――相当手強いんですね。

「いや正直、やる側としては、本当に大変な作品で……(笑)。でも幕が上がるまでに、一回くらいはたどり着いておきたい場所があって。そこを残りの時間で必死に探す、という感じですね」


想像もできないほどの多忙な日々の中で、悩み、迷い、苦しみながら、目の前の仕事にひとつひとつ向き合っていく。“誰からも求められる男”というイメージからは程遠い、31歳・男子の等身大の姿を垣間見た取材だった。

© 前康輔/ぴあ

写真集『R』は、広大な砂丘の彼方へと駆け抜けていくショットで終わる。砂の上にしっかりと刻まれた足跡のように、これからも「自分にしかできないこと」を信じて、道なき道を歩んでいくのだろう。取材を終えた彼は休憩時間もなく、「ありがとうございました、ういっす」と告げて、多くのファンが待つ写真集発売イベント会場に、軽やかな、しかし確かな足取りで向かっていった。

田中圭写真集「R」 発売中

© 前康輔/ぴあ

撮影:前康輔
2700円 (税込)
A4ワイド判・136ページ
 

『夢の劇-ドリーム・プレイ-』チケット発売中

【原作】ヨハン・アウグスト・ストリンドベリ
【構成・演出】白井 晃
【台本】長塚圭史
【振付】森山開次
【作曲・編曲・演奏】
阿部海太郎、生駒祐子、清水恒輔、
トウヤマタケオ

【出演】
早見あかり/田中 圭/江口のりこ/玉置玲央/那須佐代子/森山開次
山崎 一/長塚圭史/白井 晃
久保貫太郎/今里 真/宮河愛一郎/高瀬瑶子/坂井絢香/引間文佳

【日程】
神奈川公演
2016年4月12日(火)~30日(土)(4/12と4/13はプレビュー公演)
KAAT神奈川芸術劇場<ホール内特設ステージ>

松本公演
2016年5月4日(水・祝) ~5月5日(木・祝)
まつもと市民芸術館 実験劇場

兵庫公演
2016年5月14日(土)~5月15日(日)
兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール