人類史上初のマラソン2時間切りへ。

ナイキとリオオリンピック男子マラソン金メダリストのエリウド・キプチョゲ選手らが挑戦した「Breaking2」プロジェクトは、様々な専門家が集結し研究し、フルマラソンを2時間以内で走りきるというもの。

2017年に開催され、目標まであと26秒という2時間00分25秒(非公式)という好成績を残すことができました。
※2019年9月現在の公式世界記録は2時間01分39秒(キプチョゲ選手)

そんな「Breaking2」プロジェクトのルポが掲載されているのが書籍『限界は何が決めるのか? 持久系アスリートのための耐久力(エンデュアランス)の科学』

世界でたった2人、舞台裏の取材を許されたうちの1人であるアレックス・ハッチンソン氏が、当時の様子を『ランナーズ・ワールド』に書いた記事をもとに、再構成しています。

「Breaking2」に参加したのは、キプチョゲの他に、当時の男子ハーフマラソン世界記録保持者のゼルセナイ・タデッセ(エリトリア出身)※と、ボストンマラソンで優勝2回のレリサ・デシサ(エチオピア出身)。彼らはナイキのサイエンスチームが60人の候補の中から選んだエキスパートといえます。

※2019年8月現在の男子ハーフマラソン世界記録保持者は、2018年10月28日、58分18秒を記録したケニアのアブラハム・キプトゥム。

会場は街中ではなくイタリアのF1サーキット。これには風が少ないことや、カーブが緩やかであることが理由に挙げられました。3人のランナーを囲むのは6人のペースメーカー。

彼らは交代しながら、ひし形のかたちを成して3人が受ける風の抵抗を最小限におさえるようにしました。そして、約2.4kmのコースを1周回るごとに個々人に最適化されたドリンクで栄養補給。

彼らの足を支えたのが2時間切りのために開発されたナイキ ズーム ヴェイパーフライ エリート。日本でも大ブームとなっている厚底シリーズの一つです。

約3cmの厚いソールについ目がいってしまう同シューズですが、軽くてクッション性が高いだけでなく、走る度に80〜85%のエネルギーリターンが見込めるので推進力も得られたのです。

周囲ができる限りのことを尽くして挑戦したのが「Breaking2」。非公式ながら、結果は冒頭の通りですが、この第2章となる「イネオス1:59チャレンジ(INEOS 1:59 Challenge)」が開催されるという発表がありました。

今回の開催地はオーストリア・ウィーンで、2019年10月12日に予定とのこと。まだ、詳細は発表されていないものの、2時間切りの挑戦が続くのは嬉しいことですね。

「キプチョゲが履いた新しいシューズ(ナイキ ズーム ヴェイパーフライ エリート)が助けになったとして、それはどの程度だったのか?キプチョゲが直前になって採用を決めた、吸収を助けるために糖質を特別なヒドロゲルでカプセル化したスウェーデンの実験的スポーツドリンクについてはどうか?

あのドリンクはエネルギー切れを防ぐのに役立ったのだろうか?そしてルーフに巨大な時計を取りつけたテスラには、隠れた風よけ効果があっただろうか?」(書籍『限界は何が決めるのか? 持久系アスリートのための耐久力(エンデュアランス)の科学』)

「Breaking2」での好タイムの背景について必要な議論を、ハッチンソン氏が同書で挙げていました。こういった細かな研究の繰り返しが、人類初のマラソン2時間切りに繋がっているのでしょう。

「数週間後にデンバーで開かれた会議で、コロラド大学の研究者、バウター・ホーフカマーとロジャー・クラムがヴェイパーフライの分析結果を発表した。ランニングエコノミーは平均4パーセント向上しているという。私がざっと計算したところでは、キプチョゲにとっては約1分のタイム短縮になる」(書籍『限界は何が決めるのか? 持久系アスリートのための耐久力(エンデュアランス)の科学』)

このレベルのランナーにとって約1分の短縮は非常に大きなもの。人類の研究の成果が、人類のロマンに繋がっていることがわかりますね。この10月の挑戦ではどのような結果になるか。今から楽しみで仕方ありません。

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