行き場がなく、もがき苦しむ姿は、今の日本社会を描写

主人公・ケンを演じたカトウシンスケさんは、台北映画祭に参加した際、「196070年代の高倉健や菅原文太主演の任侠映画は爽快感があるのに、この作品にはそれがない」といわれたそうです。

そして「あの頃は日本が高度経済成長期で輝ける未来を見えていたが、今は時代が異なる。

主人公たちにカッコ悪く、生活を豊かにするために麻薬密売に手を染めていったのに、それさえもうまくいかない。

そんな行き場がなく、もがき苦しむ姿は、今の日本社会を描写できたのではないのだろうか」と振り返りました。

©「ケンとカズ」製作委員会

小路監督は、キャラクターを決めてからオーディションをするのではなく、出演者を決めてからキャラクターを調整していったといいます。それもまた、商業映画では考えられないことです。

カズ役の毎熊克哉さんいわく「小路監督は、実際には映画には出てこない主人公たちの背景に重点を置いていた。さらに、撮影現場での空気感に対して、並々ならぬこだわりを持っていた」とのこと。

麻薬中毒者の描写さえなく、ただひたすらに2人の男の苦悩を追っていきます。あえて個人にこだわることで、日本社会そのものの姿を見せる。

その撮影スタイルは、海外の記者たちの目に「バイオレンスではなく、社会ドラマとして、極めて重要な作品である」と映ったようです。 

右からカズ役・毎熊さん、ケン役・カトウさん、小路監督

肌に伝わる芝居をしてくれる俳優たち

カトウさんは「日本の俳優は、肌に伝わる芝居をしてくる人があまりいない。

この作品はインディペンデント映画で予算も掛かっていませんが、その芝居を導き出すことに心血を注いでいます。

肌感覚でわかるものは、どの国へ行っても伝わるということが、海外で上映されたことでわかったの」とうれしそう。

小路監督の演出は、カメラを主人公たちに並走させ、その息遣いを写し撮っていきます。

その演出法は、今年のカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞したケン・ローチやダルデンヌ兄弟が使ってきた演出法。

近年は、ハリウッドでも近年採用されており、レオナルド・ディカプリオが主演賞を受賞した『レヴェナント』や『マネー・ショート』などで顕著にみられるものです。

©「ケンとカズ」製作委員会

ただ、日本のメジャー作品ではほとんど見られない作品だけに、海外の記者には「これまでの日本映画とは違う」ように映ったのかもしれません。

2011年に、小路監督は同名の短編を製作して各国の映画祭で上映もされています。しかし、短編では伝えられない思いがあり、長編として再度この作品に挑みました。

言葉でだけでは説明がつかない、リアルな空気感によって紡ぎ出される男たちの友情。

そこに何が描かれているのかを、是非スクリーンで確認してください。

「ぴあ中部版」映画担当を経て上京、その後はテレビ情報誌、不動産雑誌・広告などの編集・ライターを務める。著書に『年収350万円でも家が買える』(2014年・彩図社刊)。また、映画監督としては、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭などで注目され、2002年「異形ノ恋」(出演・西川方啓、木下ほうか、寺田農)でデビュー。