4.不倫について開き直る夫
ですが、だからといって彼女が離婚せず夫の不倫を許す気持ちにはなれず、彼女は離婚届と離婚協議書を揃えて夫に差し出し、
「離婚してほしい」
と切り出します。
その頃、妻の不機嫌さが増してより一層ピリピリした空気の漂う家庭では、夫は妻の顔も見ることなく食事が済めばさっさと自分の部屋に戻っていくような日々でした。
テーブルに広げられた書類を見て、夫は黙って横を向きます。
「浮気してるよね?
別にその人と別れなくていいから、私と離婚して」
彼女が冷静に言うと、夫は驚いたように肩をすくませてこちらを見たそうです。
「不倫、してるよね?」
彼女は重ねて尋ねますが、顔色の変わった夫はやはり何も答えず、それは「すぐ否定しないってことがもう答えだよね」と彼女の目には映りました。
夫はやっと、
「証拠は?」
と低い声で言います。
「あるけど、ここにはないよ。友人に預けてあるから」
それは嘘でした。妻はスマホに収めた写真を確かに持っているけれど、手の内をすべて明かすのは危険だと判断し、これで決着がつかないなら裁判所に調停を申し立てるつもりでいました。
「ここに出して見せてよ。
証拠もないのに浮気を疑われたんじゃたまらない」
夫は、妻の言葉を無視して続けます。
それは、妻が「ここにはない」と答えたことで、浮気の確認はハッタリなのだろうと思っていることがよくわかりました。
妻の怒りはその瞬間にぐっと深くなり、
「出せないけど、教えてあげようか。
○月○日、私には『夜勤だ』って言っていたけど、○○さんとホテルに行ってたよね?
○日の日曜日には○○ってレストランで食事をして、その日のドラレコの録画は削除したんだよね?」
自分でも怒りで声が震えるのがわかった、と彼女は言っていましたが、チェックしたLINEのやり取りで得たことを話すと、夫の顔色はふたたび変わります。
「ドラレコのチェックまでしたんだ……。
怖い」
本当に浮気がバレていることを知り、それでも必死に論点をずらそうとする夫の姿は「本当に気持ち悪くて醜かった」、と彼女は吐き出します。
5.離婚は“間違い”ではなく“新しい希望”
結局、夫は不倫についてひとことも彼女に謝りませんでした。
「お前が俺を大事にしないから」
「彼女との時間に癒やされていた」
など、自分の非を認めるのではなく「不倫させたお前が悪い」と開き直る夫に、彼女は
「1ミリの愛情も感じなかったし、一刻も早くこんな人間とは縁を切りたいと思った」
そうです。
彼女が「離婚届に記入しないなら、調停を起こすから」と言ったことで夫は観念し、その場で離婚届と離婚協議書にサインをし、ふたりの不毛な結婚生活は終わりを迎えました。
それを親戚たちに告げたとき、案の定みんな
「なんてことをしたの」
「もうどうしようもないの?」
「今ならまだ引き返せるんじゃない?」
と相変わらず彼女の気持ちをいっさい無視した言葉を返してきましたが、彼女は
「離婚は私たち夫婦の問題であって、『どこもそんなもの』ではないの。
間違っていると思うならそれでいいし、もう頼らないから」
とだけ返したそうです。
その態度にまた親戚は顔をしかめたそうですが、彼女は
「私の決断は私の問題で、他人が決めることじゃない。
離婚は間違いじゃなくて、新しい人生を始める希望だと思ってる。
わかってもらえなくても、それこそもう仕方ないよね」
と話してくれました。
彼女はそれから娘と家を出て新しく部屋を借り、今は以前より生き生きとした姿で仕事もプライベートも楽しんでいます。
*
現在、彼女は親戚と和解し、娘さんを連れて遊びに行くようなつながりが復活しています。
「やっぱり身内だからね、時間が経って受け入れてくれたんだと思う」と彼女は話しますが、「離婚は悪」ではないことが彼女の姿から伝わったことが、周囲の気持ちを変化させたのかも、とも思いました。
その決断は、新しい希望だった。それを見せ続けることができたのは、彼女自身が「自分の幸せは自分で決める」という強い意思を持っていたからこそ。
どの選択が自分を救うのか、離婚を考えたときこそ冷静に見据える覚悟が重要なのだと実感します。