働く女性が出産して復職した後に、簡単な作業しか任されなくなったり、昇進できないポジションに固定されたり…。そんな状況を「マミートラック」といいます。
時短勤務で子育てと両立できる働き方と聞くと、働くママにとっては理想的な状況にも思えますが、仕事にやりがいや充実感を感じられなくなって悩むママも多いようです。
今回は、実際にマミートラックに陥ったことがあるというキャリアカウンセラーの岡本真梨子さんに、ご自身のマミートラック体験のほか、回避するためにできること、陥ったときの対処法などのアドバイスを伺いました。
肩身の狭さに苛まれた時短勤務の日々
岡本さんは、最初に就職した大手企業で長時間労働を経験。結婚を機に退社し、次の仕事は、出産・子育てのことを考えて、比較的残業が少ない財団法人での専門職を選びました。
ワークライフバランスのとれる落ち着いた環境で、じっくり長く働き、専門性を身につけていきたいと考えていたそう。
しかし、実際に出産して復帰してみると、岡本さんにとって、職場は働きやすい環境ではなくなっていました。同じ職場にワーキングマザーが少なく、復帰後の働き方が事前にイメージできなかったため、複数の「盲点」があったのです。
まずは、17時までの時短勤務になったことで、周囲に対する肩身の狭さと申し訳ないという罪悪感に苛まれたといいます。
岡本さん(以下、岡本)「当時の職場は年功序列型の組織で、きっかり同じ場所で同じ時間働くことを良しとする風土。時短勤務というだけでも肩身が狭いのに、子どもの発熱や保育園の面談などで休んだり早退したりすると、その分だけさらに周囲に迷惑をかけてしまうんです。
忙しそうな上司がため息をつきながら働いている背中に『すみません、お先に失礼します…』と謝りながら退勤するときの光景は忘れられません」
配慮されすぎて、成長が望めない状況に…
また、仕事自体も、まさにマミートラックと呼べる内容に変化していったそうです。
岡本「キャリアを積むには出張業務が必須でしたが、復帰後は泊まりがけの出張や、朝が早い仕事は対象外に。反対に、サポート業務や単純作業が多くなりました。自分がここまではできると思っていることでも、『お子さん小さいし、無理よね』と相談なく決められてしまうんです。
周囲は良い方ばかりで、私に配慮してくださっていることは重々わかっていたのですが、学生アルバイトでもできそうな仕事を、指示通りに黙々とやるということが続いて…。
『こんなことがしたくて入ったんじゃない…。でも迷惑かけてる立場だし不平不満は言えない』と、日々気持ちを飲み込んで働いていました。
子どもは二人ほしいと思っていましたが、『二人目を授かったとしても、その子が大きくなって、また責任のある仕事をさせてもらえるのはいつになるだろう?』と将来を想像したとき、まったく成長していない、何者にもなれていない自分の姿が思い浮かんで気持ちが暗くなりました」
マミートラックが苦になるママと、ならないママがいる
成長を実感できない環境がつらくなり、結局、財団法人を辞めることを選んだ岡本さん。その後フリーランスでの活動を経て、現在は株式会社エスキャリアにて、多くのキャリアカウンセラーとともに女性のキャリア支援を行っています。
岡本さんは、多数の女性のキャリア支援をするなかで、マミートラックにもいくつかパターンがあることに気づいたそう。そこに、マミートラックを事前に回避するためのヒントがあるといいます。
岡本「マミートラックで一番多い例は、妊娠前は仕事中心の生活をしていて、実績を上げ、やりがいも収入もあったのに、復帰後は補助的な業務の担当に変わり、収入も激減、昇進も遠くなってしまった…というものです。
そんな状況で、働く意味を見いだせなくなり、優秀であるにも関わらず仕事を辞めてしまう女性をたくさん見てきました。
しかし一方で、マミートラックに陥っても、特に不満を感じない女性もいらっしゃいます。『子育てに専念したいから今の働き方でかまわない』と、現状にある程度満足している方です。
この差は、働く上で何を重視するかという考え方の違いから生じています。どちらが良い悪いということはなく、前者は働きがい、後者は働きやすさを、より重視しているということです」