日本医学小説大賞が創設されるなど(第1回受賞作は帚木蓬生『蝿の帝国』『蛍の航跡』新潮社)、医療や医学を扱った作品に対する注目度はこのところ急上昇中だ。櫻井翔・宮崎あおい主演で夏川草介『神様のカルテ』(講談社)が映画化されたことも記憶に新しい。そうした医療小説ブームの火付け役になったのが、2006年に発表された第4回「このミステリーはすごい!」大賞受賞作、海堂尊『チーム・バチスタの栄光』だ。

この小説は、とある架空の地方都市に存在する東城大学医学部付属病院を舞台にしている。〈不定愁訴外来〉唯一の医師である田口公平は、ある日病院長の高階権太から特命を受ける。難度の高い心臓外科手術を次々に成功させてきた〈チーム・バチスタ〉に異変が起きているというのだ。立て続けに術中死が起きているのはなぜか。その内情を調べ始めた田口は、厚生労働省からやってきた白鳥圭輔と知り合う。キャリアであることを鼻にかける白鳥は〈ロジカル・モンスター〉と異名をとるほどの頭脳の持ち主だった。

医学部内の権力抗争から距離をとって日々を平穏に送ることだけを望む田口と、奇妙な情報収集理論を振りかざして策謀をめぐらす白鳥のコンビは探偵役としても新鮮で、『チーム・バチスタの栄光』は「このミス!」大賞きってのヒット作となった。役柄の性別を変えて田口を竹内結子が、阿部寛が白鳥を演じた(これが後の『新参者』の加賀恭一郎刑事役につながる)映画版も話題になった。第2作『ナイチンゲールの沈黙』以下の続篇もベストセラーとなり、作者の海堂尊は一気に人気作家の仲間入りを果たした。

『ケルベロスの肖像』は〈田口&白鳥〉連作の第8作にあたる(第7作の『玉村警部補の災難』のみ短篇集)、宝島社版におけるシリーズの完結篇だ。これまでの作品において、厚生労働省官僚の白鳥がわざわざ地方都市の東城大学病院に出入りしていたのは、ここに日本初のAiセンターを設立するためだった。それがついに落成、発足することになるのである。だが、センター長を拝命した田口は、またもや面倒事に巻き込まれる。「八の月、東城大とケルベロスの塔を破壊する」という脅迫状が送り付けられてきたのだ。