ハラハラドキドキと無縁の日本代表を見て、刺激不足と感じるのはとても贅沢な悩みと言える。11/11(金)のW杯アジア3次予選・タジキスタン×日本は、張り詰めた緊迫感ではなく、安心感に包まれていた。

直前合宿を張ったドーハでは気温35度を超え、決戦の地・タジキスタンは雪が残っていた。ここ日本でも11月上旬に急激に寒くなり、日々の生活をする上でも、体調管理に気を使うというのに、温度差30度近い西アジアから中央アジアへの移動・環境の変化は想像を超えるものがある。しかも、ピッチはテレビでも、デコボコなのは伝わってきた。さらに言えば、丸1ヵ月前に8-0で粉砕した相手である。気の緩みから思わぬ苦戦を強いられても不思議はなかった。

11月12日付日刊スポーツの裏1面

   

 















結果はご存知の通り、4-0と日本が圧勝した。前半はタジキスタンの出足の良さとピッチコンディションによって、日本のボールがおさまらず、ちょっとしたストレスを感じる展開だったが、前半36分に今野泰幸の先制弾が決まってからは淡々と試合が進んだ。

後半16分の岡崎の追加ゴールで、タジキスタンはガクっときたはずだ。さらに前半から飛ばしていたタジキスタンの出足が鈍ってくれば、後半37分、試合終了間際と得点を重ねたのには「大人のサッカー」を感じた。

かつての日本代表は「大人のサッカー」が、なかなか具現化できなかった。ゴール前でもパスを最優先するあまりみすみすシュートチャンスを逃してしまうなんて場面が多々あった。だが、今の日本は引いて守る相手をクロスボール一辺倒ではなく、裏への飛び出しやドリブルからの強引なシュート、空いたスペースをつくパス回しなど、手を変え品を変え、ゴールをこじ開けようという意図とバリエーションが見える。

(後半37分、DF3人に囲まれながらパスではなくシュートを選択した前田遼一のゴールからは「自分で決める」というストライカーの自負を感じ、終了間際の岡崎のゴールでは、前田のワンツーでゴール前に侵入した清武弘嗣が右サイドから走りこんだ岡崎へパスを送った、22歳らしからぬ冷静さと視野の広さを感じた)

この「大人のサッカー」に欠かせぬ存在が、遠藤保仁だ。前半の立ち上がりにペースを握れなかった日本だが、遠藤はリズムの構築に腐心していた。遠藤は試合後、「ちょっと縦に急ぎすぎたところがあったし、サイドの深いところに行っても簡単にセンタリングを上げてしまったり、相手にとっても守りやすい攻撃をしていた。もう少しボールを落ち着かせようと思った」と語っている。遠藤がボールを落ち着かせるためにしたことと言えば、短いパス回しである。遠藤はゴール前をガッチリ固める相手に、一本のパスを通そうなんてバクチ的なパスを出さない。ピッチ中央で長谷部誠とのパス交換をしたかと思えば、左サイドの駒野友一ともパスを交換する。何気ないこのパス交換には「攻め急ぐな」という攻撃陣へのメッセージが含まれている。ショートパスの交換でジリジリ前へ出れば、相手のギャップができる。守備のほつれが見つかれば、ピンポイントパスを通せばいいのだ。

また、遠藤の技術力の高さも味方には頼りになる。中盤のボール回しの中心は常に遠藤である。タジキスタンでのアウェイゲームでもそうだった。チームメイトには「ヤットさんにボールを渡しとけば大丈夫」との思いが強い。少々パスがずれても、多少パスが強すぎても、かなりピッチが荒れていても、遠藤ならばしっかりボールを収めてくれる。中盤のパス回しで最もナーバスになるのは、パスミスからのカウンターである。遠藤のおかげで、周りの選手たちはカウンターを食う心配が軽減されているのだ。

しかも、遠藤は気が利く。後半42分に清武が投入されると、遠藤はすぐに清武へパスを蹴り、試合に入っていけるようちょっとした気遣いを見せた。

「大人のサッカー」は、「隙のなさ」とも同義だ。選手選考において「隙のなさ」を見せたのが、ザッケローニ監督である。ザックは今回のアウェイ2連戦に五輪代表の清武と原口元気を選出した。五輪代表のキーパーソンであるふたりだが、A代表ではレギュラーを脅かす存在ではまだない。しかも、五輪代表は最終予選の天王山とも言える11/22(火)・バーレーン戦、27(日)・シリア戦が目前に控えているのにかかわらず、ザックはふたりを呼んだのだ。指揮官はメンバー発表時に選出の理由を語った。「(清武と原口は)今回の2試合に出場するか否かにかかわらず、A代表に帯同してレベルの高い選手とトレーニング、時間を共にすることで、さらなる成長を促すのではないかと思う。クラブチームで成長している中、A代表の経験を積むことで、さらに成長してくれることを祈っている」

急を要すわけではないが、将来有望な選手は呼ぶ。たとえ、大一番を前にした五輪代表にとってその選択がマイナスになっても、だ。ザックの決断からは「プライオリティは五輪よりもW杯」という日本以外のスタンダードな考えと、あらゆる事態を想定して常に次の手を打っておく隙のなさが垣間見える。

最終予選進出を決め、言わば消化試合となった11/15(火)・北朝鮮戦をザッケローニはどんな位置付けで臨むのか。選手をガラリと変え底上げを図るのか、ザックの代名詞と言える3-4-3に再チャレンジするのか。隙のない指揮官のこと、北朝鮮戦を意味のある90分間にすることだろう。 

あおやま・おりま 1994年の中部支局入りから、ぴあひと筋の編集人生。その大半はスポーツを担当する。元旦のサッカー天皇杯決勝から大晦日の格闘技まで、「365日いつ何時いかなる現場へも行く」が信条だったが、ここ最近は「現場はぼちぼち」。趣味は読書とスーパー銭湯通いと深酒。映画のマイベストはスカーフェイス、小説のマイベストはプリズンホテルと嗜好はかなり偏っている。