今回は「ガンダムエース」で連載中の作品の中から
『トニーたけざきのガンダム漫画』(トニーたけざき)を紹介したい。タイトル通り漫画家であるトニーたけざき氏が描いたガンダムの漫画だが、ガンダムシリーズの最初であることから“ファーストガンダム”と呼ばれる「機動戦士ガンダム」を基盤としたパロディ漫画だ。
まず特筆すべきは、絵柄が安彦良和氏とそっくりなことだ。安彦氏は「機動戦士ガンダム」の作画監督やキャラクターデザインを務め、自らもガンダムの漫画を手がけている。コミックス1巻には、その安彦氏が特別寄稿として「くたばれ トニー」を描いている。主人公のアムロ・レイを始め、ガンダムのキャラクター達が安彦氏を訪れ、トニー氏によってパロディ化されたことの苦情を、次々に言いに来る。すると安彦氏も「そういえばオレも時々どっちがオレの原稿だったかわからなくなる…」と腕組みして思いにふけるコマがある。そんな一同が集まる中で、コマの裏側から姿を現すのがトニー氏だ。安彦氏によって鉄槌ならぬ巨大な木槌を振り下ろされるのだが、しぶといトニー氏は生き残って(当たり前か)、コミックス2巻、3巻とガンダムパロディを続けている。現在発売中のコミックスは3巻まで。多少、不定期連載のためコミックス発売も不定期だが、当面連載も続くだろう。
また同じパロディではあるのだが、ガンダムのプラモデル(通称ガンプラ)を使った企画漫画も掲載されている。ガンプラ漫画はコミックス2巻に収録されているものの、手間を考えれば普通に漫画で描いた方が早いに違いない。コミックス巻末に、制作過程や苦労話も明かされている。トニー氏は、同じプラモデルを大量に買って変な人だと思われることを危惧するあまりに、購入する日を別にしたり、別の店に買いに行ったりしたとのこと。曰く「ワケのわからない気苦労」だそうだ。確かに同じものを19個買うのであれば、抵抗を感じても仕方が無いだろう。ただ売る側からすれば、お得意さんとは思っても、変な人とは思わないのではないだろうか。いろんなファンがいるのは事実。今後は19個と言わず、20個でも50個でも購入して、大作ガンプラ漫画に期待しよう。
そうして作られたガンプラ漫画は、プラモデルを使った効果を十分に活かしながら、パロディとしてもしっかりした作品に仕上がっている。第6話の「PG(パーフェクトグレード)ガンダムを買ってみたのでの巻。」は、それこそPGガンダムでなければできないパロディだろう。どんなネタやオチかは、コミックス2巻で直接確認して欲しい。ガンダムシューズとは何か。ガン・ブラとは、ガン・パンツとは、そしてダム・カバーとは何かがわかるはずだ。
『トニーたけざきのガンダム漫画』に限らないが、パロディの中には、複数の作品をベースとしたものもある。その両方の作品を知っていることで、より面白さが深まる効果が出てくる。コミックス1巻の10話「ホワイトベースの光と影の巻。」、その3に「ヒゲとボイン」がある。まず間違いなく小学館の「ビッグコミックオリジナル」で連載中の『ヒゲとボイン』(小島功)にかけたものだろう。『ヒゲとボイン』は、題名通りヒゲを生やした男性と、胸の大きい女性がコミカルかつエロチックにギャグを繰り広げる独特な雰囲気の漫画だ。それを踏まえた上で、ガンダムに登場するキャラクターで「ヒゲとボイン」を繰り返している。
連邦の“ヒゲとボイン”、ジオンの“ヒゲとボイン”、そしてザビ家の“ボインとヒゲ”。4コマ漫画の起承転結ではないだろうが、この辺りでちょっと雰囲気が変わっているのが感じられるはず。そして“ボインのみ”となり、この後に来るのは当然“ヒゲ”なのだが、このヒゲが完全に意表をついた形だ。ここで明かすことはしない。コミックス1巻を読んで欲しい。トニー氏の狙い澄ましたカウンターアタックなのか、それとも苦し紛れの案だったのかは分からないが、どちらにしてもガンダムの奥深さを知ることになるだろう。