紺野「いろいろな食材を使われたほうがいいと思います。あとはカラフルに、彩りがいいと栄養のバランスが非常によくなります。
私もスポーツ栄養学などの講習を受けますが、やはり様々な色の野菜、そして肉あり魚あり、カラフルな食卓をめざすように指導しているんです。
食事を作るには時間も手間もかかるし、コンスタントにいいものを出すのは、相当な『勤労』ですよね。でも、からだは食べ物でできているから、いろいろなものを組み合わせて食べていくのが一番なんですね。大変かもしれませんが、私も目標にしています。
家で作るなら、文明の利器を使われたほうがいいと思います。例えば電子レンジなんかは、温めるだけでなく、野菜の加熱などもできます。
お湯を沸かして野菜をゆでるのは大変ですが、耐熱の容器に野菜とお水を入れて加熱すれば、お浸しも簡単に作れます。そういう、昔はなかったものもどんどん活用されるとよいのではないでしょうか」
栄養価の高い苦手食材は好きなメニューと一緒に。使用頻度を多く
――栄養的に、積極的にとりたい食材は何でしょうか。
紺野「『まごわやさしい』(※)という言葉がありますが、献立をたてるとき、豆、特に大豆を入れると栄養価がぐんと高くなるのがわかっているので、積極的に使うようにしています。
※豆類、ごまなどの種実類、わかめなどの海藻類、野菜、魚介類、しいたけなどのキノコ類、いも類
でも子どもたちは、枝豆はよく食べるけど、大豆はあまり食べない。本当は、五目豆など和食のものを喜んで食べてくれるといいのですが、なかなか難しいので、ドライカレーやマーボー豆腐に刻んだ大豆を入れたりしています。
ほかに、意識して給食に使っているのは海藻やきのこです。ひじきも、油揚げと一緒に甘辛く煮たものをサラダの上にのせれば、食べやすいと思います。
こういった食材は、昔から日本人が食べ続けてきた食材です。子どもたちが大人になったときに、いかに食卓にのせてもらえるかですね。
給食では、野菜料理にツナを入れるとおもしろいほどよく食べます。サラダにしてもお浸しにしても、和でも洋でも。ツナが好きみたいです、うちの学校の生徒たち(笑)」
渋谷「でも、全校の子どもが同じように豆が嫌いかと言ったら、そうでもないんです。豆がすごく好きで、豆ごはんを出すといつも空になる、という学校もあります。和食が好きで、和食だといつも空になる、という学校もあります。
では、その学校がなにか特別なことをしているのかというと、そういう訳でもなく…いたって普通の、標準のレシピで作っていたりする。
誰もが食べるような、なにか特別な法則があれば苦労はないのでしょうが、なかなか統一した法則というものはありません。それぞれの学校で、どうしたら子どもたちが食べてくれるか、日々創意工夫しながら栄養士は献立をたてています。
毎回同じように作っても、そのたびに味が違ったり、季節によって味の濃さが変わったり…。その感覚は紙に書いたものとは違いますし、そこに難しさがあります。職人の世界ですよね」
紺野「給食づくりでは、AI(人工知能)などではクリアできない部分があると思います。人間にしかできないことを力を入れてやりましょう、という感じです」
最後は深い話になりました。お話を聞いてわかったのは、プロの栄養士の方々といえど、子どもたちに栄養のあるもの、いろいろなものを喜んで食べてもらうために日々思いをめぐらせ、時には失敗したり、試行錯誤を重ねているのだということ。
だから、自分が作った料理を子どもがおいしそうに食べてくれないからといって、イライラしたり、ましてや落ち込んだりすることはないのではないか?
子どもに合わせて別の日、別の方法でやってみればいいし、大切なのは、子どもを喜ばせたいという気持ちだったり、愛情を伝えることだったり、子どものときに「これを食べなさい」と言われていた、そのことを大人になってから思い出してもらえるようにすることなのでは…? いろいろ考えさせられました。
ぜひ「おいしい給食」の話を食卓に持ち込んで、食の共有体験を増やしてみてはいかがでしょうか。