年内には海外旅行へ行けるようになるだろう。などと半年前はのんきに考えていたが、一般旅行者が海外へ渡れる日はまだ先のようだ。単行本取材のため鉄路で台湾を一周してから1年が経った。こんなブランクはいつ以来だろう。
そこで、今回から数回に渡り、動画や写真で台湾の空気をお伝えするWebツアーを行うことにする。
最初に取り上げるのは、台北西部に位置し、台北最古の寺院・龍山寺を中心とした古くて新しい町、艋舺(萬華)エリアだ。
時代遅れな街(?)
1970年代に全盛期を迎えた艋舺は、当時は台湾でもっとも賑やかな繁華街であり、上京者がこぞって目指す憧れの地だった。日本の東京で言えば上野・浅草のような街だ。
北西部の華西街夜市にはヘビの生血を飲ませる屋台があり、その裏手の赤線地帯ではピンク色のネオン看板が怪しげな雰囲気を醸し出していた。
そのあたりの雰囲気は以前、ウレぴあ総研のコラムで取り上げた台湾映画『モンガに散る』(台湾ロスを癒す「日本で楽しむ台湾」vol.1【話題の映画】)によく描かれている。
1990年代から台北の中心は徐々に東側へと移り始めた。今思えば、台北市内にSOGOの1号店が華々しくオープンした頃だ。
台北駅周辺や艋舺といった西側は都市開発から置いてけぼりを食い、東側では新しいデパートやおしゃれな商業施設の建設ラッシュが続いた。
それまで台北で一番高かった台北駅前の新光三越をはるかに凌ぐ超高層ビルTaipei101も台北東部で完工した。
懐古ブームで再び注目される
東部に遅れを取った台北西部は廃れるばかりかと言えばそうでもない。
艋舺界隈は中高年の歓楽街というイメージが強かったが、最近では若者の懐古ブームに乗って古い市場がおしゃれにリニューアルされたり、日本家屋を改造した中国茶のカフェができたりと進化を遂げている。
さらに伝統的な廟や市場の風情、何十年も続く老舗の食堂などは外国人旅行者にとって魅力的たっぷりだ。
起点は龍山寺
艋舺の中心はやはり龍山寺。パッケージツアーの定番でもあるので訪れたことがある方も多いだろう。
MRTの青いラインである板南線の「龍山寺」駅で降り、エレベータや階段を上がると、駅の真上が広い公園(艋舺公園)になっており、この公園から廣州街という通りを挟んで北側に龍山寺がある。
無料で誰でも入ることができるので散歩のついでにふらりと立ち寄ってみよう。寺の前には花や線香、紙のようなものを売る人が並んで座っている。
わら半紙を四角く切ったような紙は天国で使うお金だ。故人があの世でお金に困らないように、境内の小さな焼却炉で1枚ずつ燃やす。
台湾のお寺には独自の参拝ルールがある。たとえわからなくても、キョロキョロしていれば、たいてい親切な台湾人が声をかけてくれる。
龍山寺にはそうした案内役を買って出てくれる人が多く、香を買う場所や参拝の順番などを教えてくれるのだ。もちろん、言葉など通じなくても身振り手振りでなんとかなる。それが旅のいい思い出になるだろう。
龍山寺の前の艋舺公園は高齢者のたまり場になっていて、お年寄りが集まって将棋を打っていたり、ビニールシートを広げて私物を売っていたり、八代亜紀テイストの女性が自前のスピーカーとアンプでカラオケを歌っていたり、はたまた近所の美容室がボランティアでお年寄りのヘアカットをしていたりと、ディープな風景が楽しめる。