人生100年時代と言われるようになった昨今、長生きにより発生する認知症の様々なリスクが社会問題となっています。

その中でも、認知症が原因で資産管理や金銭に関わる手続きが思うようにできなくなる困りごとが増加傾向で、高齢の親がいる方にとっては身近なトラブルの種になっています。

今回は、高齢者の中でも認知症の方のお金にまつわる困りごとの事例についてと、その解決・予防策として利用できる「家族信託」のしくみや、メリット・デメリットについて解説します。

認知症の高齢者が直面する「お金の困りごと」3事例

認識能力や記憶力の低下、判断力の減少など認知能力が日常生活に支障をきたす状態の認知症の高齢者は、自身でお金の管理も難しくなり困りごとも多くなりがちです。

そのなかでも代表的な3つの事例をみていきましょう。

事例1: 銀行預金がおろせない!?

認知症により本人の判断能力が低下し意向確認ができなくなると、本人名義の銀行口座は凍結されてしまいます。

近年増加している「オレオレ詐欺」などの特殊詐欺等による被害から高齢者を守るための対策ではあるのですが、預金をおろす必要があっても本人や子供が預金をおろすことができません。

また証券会社でも、銀行と同じく本人の意向確認ができなくなると、預けている資産の売買や売却資金の引き出しができなくなります。

事例2: 自宅が売却できない

親の認知症が進み、介護施設や老人ホームに入居することになると、同居していない場合は親の自宅が空き家になります。

将来、親が自宅に戻る見通しが立たない、空き家の管理が大変などの理由でいざ「売却したい」と不動産会社に話をしても、自宅の名義が親の場合は売却することができません。

不動産売買は契約行為となり、売り主である自宅の名義人が認知症で判断能力がないとなると、契約しても無効になるため不動産会社も勝手に売却はできないのです。

そのまま空き家を売却できずにいると、資産価値の低下や管理維持費、固定資産税など多くの負担が子供にかかることになります。

事例3: 賃貸用の所有不動産のリフォームや売却ができない

もし、親が自宅以外にも賃貸用の不動産を所有して賃貸経営をしている場合、その状態で認知症になるとリフォームや売却が必要になっても子供が本人に代わって基本的にリフォームも売却もできません。

たとえ親が認知症になったとしても、その物件の所有者は親なので家族が代わって手続きができない点に注意が必要です。