イラスト 上田 耀子

閑静な住宅地と駅前の商店街の間の路地裏にひっそり佇むバーは、地元住民や近隣の会社帰りのサラリーマンやOLでにぎわっていました。

15席ぐらいのカウンターの端には顔見知りの男性クリエイターとショートカットの可愛らしい20代アラサー女性が楽しそうに談笑しています。空いていた席はカップルの隣しかなかったため、二人に軽く挨拶をして腰掛けました。

弾むような口調で時々男性クリエイターにしなだれかかる様子から、彼女がクリエイターのことをとても好きという気持ちが伝わってきます。やがて終電時間になったので、彼女は名残惜しそうに帰っていきました。

私はクリエイターに「彼女にすごく愛されているね。羨ましい」と何気に話しかけると、クリエイターは「ふん」と突然不機嫌になったのです。

「どうかしたの」と尋ねると「彼女なんかじゃない」というのです。驚きました。さらに彼はまるで酔いがさめてしまいそうな怖いことを告白したのです。

「本命は10人中9人は振り返るような美女だよ。さっきのは、遊び相手」。驚きました。あんなに楽しそうにお酒を飲んでいた女性を「さっきの」とは何事でしょう。

「あなたのことを好きというオーラを出していたわ。あんなに愛されているのに、遊び相手だなんて、罪悪感はないの?」

すると彼はせせら笑って、「罪悪感なんて、まったくないよ」と吐き捨てるような言い方をしました。「確かに僕はずるいよ。でも僕に本命がいるのを知って、付き合っている彼女だってずるい。お互い様だよ」。