技術研究所長、和氣清弘さん いまは社長の座を奥様に譲り、研究に専念。

社員証などに入れられるタイプの「ウイルス ブロッカー」にしても、和氣さんは'11年4月、震災の1ヵ月後には、風邪の予防に役立てばと福島県などの被災地に約1000個を寄付していた。それで現地に行き、直に聞いたのが「職がなくてつらい」という声だった。そこで新たに販売するストラップつきの製品の袋詰め作業をしてもらうことになった。労賃はひとり1日5000円。作業場は、障害者就労施設などを現地で提供してもらう代わりに、作業に必要な道具はすべて送る。いまでも、陸前高田、東松島、名取、南三陸で最終工程のうちの一部を頼んでいるのである。

「もちろん、こちらとしてはそれで話題になるなんて思ってもいなかった。うちの商品はこれまでずっと除菌・消臭が必要な介護施設にビジネスユースで買っていただいてきましたから、被災地でもやはりそのような施設の方々に恩返しできれば、と。ストラップなしの商品の売れ行きから推測して、月に1~2万セットの最終工程を被災地の方々にお願いするつもりでした。しかし、被災地の雇用創出という点でも予想外に評判になり、いまではとても被災地の方々だけでは詰めきれない量の発注をいただいているわけです」

累計で10万個以上は売れているのに、ひとつずつ手で作業されている。

いまや、1ヵ月に数10万セットを、しかも定期的に作る製品になっているのだから、袋詰めの作業などは工場で機械によって行うほうが早くて安くできるはずだ。被災地に作りかけの製品を送り、引き取る送料も馬鹿にならない。しかし、和氣さんはしばらくはまだ手作業で、と考えている。製品コンセプトの柱のひとつが被災者の雇用創出にあった。そこは継続させて、しかし被災地のみでは分量的に最終工程をこなしきれない。そのぶんは、本社がある平塚、あとは八王子など何ヵ所かで、やはり従来通りの手作業で袋詰めを行うことにするという。 

世界水泳の選手や星野仙一監督らが愛用し、ヒットに火が付いた

'11年7月にはストラップなしの「ウイルス ブロッカー」が日本水泳連盟によって採用され、上海で開かれた『世界水泳』では日本代表の選手たちが風邪予防などのためにこの製品を携帯していた。'12年2月にはプロ野球・楽天の星野仙一監督が「インフルエンザにならないように」とストラップつきの本製品をぶらさげながらキャンプを見守った。ほかには自衛隊で使われたり、近畿大学の全教職員であるとか、多数の病院職員などにも携帯され、有名人や大企業も使っているものとして知名度があがり、いまや商品の売れ行きは磐石になっている。