お金は“流す”ことを意識しよう

私欲をコントロールするためには、“消費”という行動から距離を置く、という意識を持ちたい。これは、やみくもにお金を貯めることを意味するのではない。重要なのは、何に使うかだ。山口さんはまず、暮らしのレベルを落とし、生活費を極限まで削減するべきだと話す。

「僕は20代の頃、徹底的に衣食住にかかるコストを削っていました。平均よりも高い給与をもらっていましたが、家賃3万円のアパートに暮らしていたんです。浮いたお金を何に使うのかというと、自己投資と貯金。給与の2割で生活し、残りを自己投資と貯金に振り分ける、という割合でした」

自己投資には、勉強のための書籍購入などはもちろん、飲み会など人脈形成・維持に使うお金も含まれる。他人への貢献に自己投資をプラスすることで、先に述べた価値の創造が強化されるのだそう。

「また、自分の利益に直結しないことにお金を“流す”のも重要です。投資や福祉、還元にお金を使うということ。具体的には、農家の畑を1坪だけ買って支援する取り組みに参加したり、友だちの興したプロジェクトに投資するなど、“つながり”のある場へとお金を流すといいですね」

山口さんが提唱するのは「円から縁へ」という考え方。これまではマネーという指標が絶対視されていたが、これからの時代は縁を持っていることのほうが重要になってくるのだという。
お金を流す習慣をつけることには、さらにこんなメリットもある。

「例えば寄付をするにしても、役に立ちたいからなのか、つながりを求めたいからなのか、人によって理由は違いますよね。お金を流すことで、自分が本当は何を求めているかが見えてくる――これが流すことの価値です。また、見返りを求めずに流すという行為は、『返ってこなくても大丈夫』と思える自分が確立されることを意味します。物質的に持っているものをなくしても平気でいられるようになることは、生きていく上で自信につながる。つまり、生物的な意味で、非常に強くなれるのです」

お金というと、支払うことで対価が得られる、つまり“ギブアンドテイク”なものだと捉えがち。山口さんは、こうした考え方を「きっぱりと止めましょう」と断言。自分の利益だけを考え、お金を手元に集めたり、欲望のために費やすのではなく、他人やつながりへと流していく。「円から縁へ」を意識した振る舞いを続けることで、自分にとってのお金の意味合いは確実に変わるだろう。すると次第に、お金や欲望という呪縛から放たれ、新しい生き方が見えてくるはず。お金のあるなしに幸福度を左右されない人生にするために、まずは生活を見直し、つながりへと流す習慣をつけてみては?

 




山口揚平(やまぐちようへい)
早稲田大学政治経済学部卒業後、1999年より大手コンサルティング会社でM&Aに従事し、カネボウやダイエーなどの企業再生に携わる。その後、独立・起業後し、企業の実態を可視化するサイト「シェアーズ」を運営。2010年に同事業を売却後、12年に買い戻した。現在は、コンサルティングなど複数の事業・会社を経営。また、執筆・講演も行なっている。著書に『そろそろ会社辞めようかなと思っている人に、一人でも食べていける知識をシェアしようじゃないか』(アスキー・メディアワークス)、『なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?』(ダイアモンド社)など。