一度でも「一番好き」だったものって、ずっと好きだと思うんです

浜崎さんの愛猫・ソレイユ

――SNSを拝見していると、宝塚歌劇団の観劇、いわゆる「推し活」もされているようで。

浜崎:元々宝塚市の近くで生まれ育っているので、宝塚歌劇団にはなじみがあるのですが、本格的にハマったのは、たまたまネット上で宝塚の動画を観て、心を奪われてしまって。すぐに映像や音源を買って、鬱のときもそれを聴きながらなら動ける……みたいな。

観劇に行ったんですけど、宝塚の公演って幕間含めてだいたい3時間あるんですね。その3時間の間、一瞬もアーバンギャルドのことを考えてなかったことに気づいたんです。「私、アーバンギャルドのことを忘れてた」って。

その感覚は東京に来てから初めて覚えたものだったかもしれない。ひとりの人間として生きている時間を思い出した気がして。それで、この感覚を増やしていかないと、自分がおかしくなっちゃうと思ったんですね。もうその頃は鬱の診断も出ていたし、自分を取り戻すためのことをしたかった。

――宝塚の世界に浸っているときは「アーバンギャルドの浜崎容子」から離れることができたと。

浜崎:家で映像を観たり、宝塚ファンの友人同士でグループラインで話しているときも、バンドから離れてひとりの人間として生きていると感じています。バンドマンたるもの、プライベートを削ってでもバンドにすべてを捧げるべきという体育会系的な考え方に染まっていたなって。

ただ、だからこそ宝塚に惹かれた部分もあったのかな。宝塚の舞台に立っていらっしゃる方は、幼少期から「宝塚に入りたい」と、宝塚音楽学校の入学試験に合格し、そこからまた厳しい教育を受け、舞台に立つ……。まさに人生を捧げているんです。

これは本当におこがましい話かもしれませんが、私もアーバンギャルドのために人生を捧げていると思っているから、共鳴した部分もあるんです。

――自分の周囲でも、仕事が大変なときに、ふと「推し」と出会って救われたという人は少なくないです。

浜崎:コロナ禍以前、私は戦場にいたんです。東京で、アーバンギャルドで戦争をしていたんです。その中で初めて見つけた戦いのない場所、それが宝塚の世界なんですよ。脳みそが喜ぶ感覚というか、もちろん、これまでもバンドでいい作品作っていいライブやって、「お客さんの笑顔が見れてよかった〜」って喜びを感じることはたくさんあったけれど、それとは別の感覚なんですよ。

「推し活」中の浜崎さん

――もちろん、これを読んでいるファンの方にもきっと伝わると思います。

浜崎:だからこそ、ファンの方も365日24時間常に私たちのことを100%で「好き」でいるわけではない、波ってぜったいにあるじゃないですか。

とくに今はファンの方だって生活が大変な時期だと思います。「ライブどころじゃない、バンドどころじゃない」ということもあると思います。そうじゃなくても、私たち以外の他の「推し」が見つかったという人もいるかもしれない。いろいろな形で今は離れている方もいらっしゃる。

でも、一度でも「一番好き」だったものって、ずっと好きだと思うんです。たとえ今は黒歴史になっていたとしても、一番じゃなくなったとしても、いつかアーバンギャルドのことを思い出して、きっと戻ってきてくれる。私はそう信じています。そのときに「一回離れたじゃん」って冷たく突き放すことは絶対にありませんので、安心してください。

――アーバンギャルドはずっと待っていますよ、と。そして浜崎さん自身、一旦東京を離れ、プライベートを大事にすることで、アーバンギャルドへの気持ちの変化もあると思うんです。もちろんいい意味で。

アーバンギャルド加入時期に比べて今はインターネット技術も随分と発達しています。宝塚市で生活していて、ライブ活動や制作に変化は感じますか?

浜崎:アーバンギャルドは打ち込み中心で作られているバンドじゃないですか。東京にいたときも自宅作業が多かったので、制作に関しては不自由はしていないですね。ここに関しては場所が変わってもやれるという実感があります。

ライブに関しては、3月に東京でライブが続いたんですけど、「インディーズ時代は若かったから無理できたな〜」みたいな、体力的なしんどさは感じましたね(笑)。

反対に、14年の蓄積や経験値がものをいう場面もありますよね。加入当初とは全然勝手が違うので、その蓄積や自信をこっちに持ち帰ってこれているから、「そこは私のこと信じてね」って感じです。そこはメンバーも不安に感じていないようですし、私も自信がついた部分です。今の環境でやれているのは、すごくありがたい状況だと思ってますね。

――これまでの蓄積による自信だったり信頼関係があるからこそということですね。

浜崎:でも、まだ打ち合わせ中に東京にいる感覚でいることもあって、ツアーの話をしていて、「大阪公演の移動は……。あ、私は電車だ!」みたいな(笑)。