認知症による預金凍結を回避した家族の事例
ここからは、認知症によって預金凍結になりそうになったものの、何とか回避した家族の事例を2つご紹介します。
この事例を教えてくれたのは、司法書士でトリニティ・テクノロジー株式会社 代表取締役CEOの磨和寛さん。司法書士は預金凍結の対策の一つである「家族信託」を取り扱う専門家の一人です。家族信託については後ほどご説明しますので、早速、事例を見ていきましょう。
【事例1】母親に認知症の兆候が…どうする!?
◆家族構成
父親死別、母親80代、長男50代、長女50代
現在、施設に入居中の母親。コロナで1年以上会えず、長男が久しぶりに施設に訪問したところ、以前は元気だったものの、急速に認知症の兆候が確認されました。
長男が認知症やそれに伴う身辺の変化について調べたところ、預金口座が凍結されることを知りました。母親の預金口座が凍結されてしまうと、この先の施設利用の費用などが支払えなくなる恐れがあります。
慌てた長男は、すぐに対策を調べました。すると認知症になる前に「家族信託」の手続きを取っておけば、母親が認知症になった後も受託者が預金を引き出せることがわかりました。
【家族信託とは】
家族信託とは、信頼できる家族に自分の財産を託し、適切な方法で財産を管理・処分を任せる方法です。例えば母親自ら子である長男に財産を託し、管理してもらう契約を結ぶことで、母親が万が一認知症になったりしたときにも長男が母親の財産を管理できるようになります。
磨和寛さん(以下、磨)「家族信託は、認知症を発症した後には契約ができません。認知症発症前の軽度認知障害の段階で、判断能力に問題がないと判断される場合には利用できます。
認知症を完全に発症した後は『成年後見制度』という認知症や知的障がいによって判断能力が不十分な人が、生活をする上で不利益を被らないよう、成年後見人が本人の代わりに適切な財産管理や契約行為の支援を行うための制度を活用する他は、凍結された預金を引き出す方法はありません」
家族信託で預金3,000万円を長男が管理できるように
母親の認知症の進行に危機感を覚えた長男は、家族信託の利用を考え、早速、司法書士のもとに問い合わせをしました。長女も母親のこと強く心配しており、家族信託に協力的でした。
家族信託で委託を受ける人を「受託者」と呼びますが、長男が受託者となりました。そして母親の3,000万円ほどの預金を長男が管理できるよう設定しました。さらに、母親の遺言も一緒に作成し、相続人が全員納得できるよう平等にしました。
司法書士の解説
磨「このケースではお母様が長年施設に入られており、一定期間、疎遠になられていたことで、認知症の兆候に気付くのが遅くなってしまい、慌てて対策を取る必要がありました。このように、ご両親と疎遠になっているケースは注意が必要です。
コロナやご家族の事情など、思わぬ原因で疎遠になることもあります。物理的にも認知力的にも、意思疎通がしっかり取れている間に事前対策することが大事です」