「うちはサンドイッチが人気なんです」
開店1時間前の9時。世田谷区八幡山にあるパン屋『33』では、シェフの網代美玲さんがサンドイッチにはさむ材料を作っていた。
「これは台湾生まれの私が子どもの頃から食べていた『三杯鶏(サンベイジー)』という料理です」

生姜をきかせた鶏肉を素揚げにしたものを、甘酸っぱい自家製玉ねぎのソースで炒める。
火を止めた後バジルを大量に投入。予熱でバジルに火を通す。

フィセルというパンにレタスをはさみ、作りたての三杯鶏をのせていく。
鍋底に残ったソースをスプーンでかけたその上に、パン職人陽夏(はるか)さんが焼いた目玉焼きをトッピングしたものが、「台湾風鶏&バジル&たまごサンド」だ。
仲睦まじい愉快な雰囲気がおいしいパンを生み出す

この間、陽夏さんと美玲さんの会話が面白くて大笑い。「目玉焼きを少し硬く焼きすぎちゃった、ごめんなさい」と謝る陽夏さんに対し、「絶対許さない」と美玲さんは言い放った。
とはいえ、本気で怒っているようにはまったく見えず。じゃれあっているというか、漫才師の掛け合いを見ているようだった。

一般的にはシェフもパン職人も黙々と作業をするパン屋が多い。
ところが、この店では和気あいあいと、愉しみながら開店準備をしていた。まるで部活のような雰囲気。
「女性だけの職場だから?」と訊いたら、「私がこんな性格だからなんです」と美玲さんは大笑い。
黙って仕事をしたほうが効率がいいはず。けれど、この愉しくて愉快な環境がパンの味にもあらわれている気がしてならない。
関連記事