*アニメ絵本の登場人物が「殺されない」理由

じつは洋の東西を問わず、昔話の原典は想像以上に過激だ。たとえば『三匹の子ブタ』では、兄ブタたちはオオカミに食べられてしまう。そして報復として弟ブタがオオカミを鍋で煮て食らうのだが、最近の絵本では、オオカミとブタ兄弟が種の垣根を越えて和解するストーリーが少なくない。

前出の『かちかち山』も、おばあさんは重傷で済んでいるケースが一般的。なぜ、絵本の再話はマイルドに変容したのか?
数多くのアニメ絵本を出版している、ブティック社の相談役・志村昌也氏に話を聞いた。

「弊社のアニメ絵本は、アニメ絵本の先駆者である平田昭吾さんが手がけたもの。平田さんは手塚治虫さんのお弟子さんだった方で、ポプラ社さんなどでも絵本を書かれています。彼のポリシーは“誰も殺さない”ということ。
昔話には子どもに社会のモラルを伝える役割がありますが、“悪いことをしてはいけない”というメッセージのために、残酷的な描写を読み聞かせる必要があるでしょうか?

口伝である民話は、時代によって変化していくものです。『ありとキリギリス』『うさぎとかめ』などで知られるイソップ寓話は、もともと為政者が民衆を治めるために語られたといわれています。
弊社のアニメ絵本は現在、世界各国で翻訳され親しまれています。昔話が変わることへの議論はありますが、時代の流れのひとつとして、アニメ絵本のような再話の形もあると考えていただきたいです」

*10倍返しが基本の原典の魅力は?

今どきの再話が平和的解決を望むのに対し、原作では徹底的に悪を駆逐するのが大きな違いだ。半沢直樹のびっくりの10倍返しで、悪役は壮絶な死を遂げ、ときに鍋の具にされたりする。