絵本『シンデレラ』 Amazonで購入

「シンデレラ」の場合、毛皮の靴(ガラスの靴ではない)を無理やり履こうとする義姉たちが、みずから足を切り落とすシーンがある。靴のサイズがあっていたことで、使いの者はそれぞれの姉を城に連れて帰ろうとするのだが、靴からポタポタと血がしたたり落ちてインチキがバレるといった具合。

さらにラスト、シンデレラの幸福のおこぼれにあずかろうと結婚式に向かった義姉たちは、道中、鳩に目をくりぬかれるのである。終盤、もう読んでいてあちこちが痛い。「白雪姫」の妃も、原作では白雪姫の結婚式で熱く焼かれた鉄の靴を履き、死ぬまで踊らされる仕打ちに合う。小さな子どもだったら夜トイレに行けないかもしれない。

しかし原作の魅力は、その残虐性にあるといえよう。『進撃の巨人』が『進撃のプチ巨人』だったら、ここまで読者を夢中にはさせなかったように、主人公がめった打ちにされればされるほど読者は物語に引き込まれる。そしてついにラスト、悪者が叩きのめされることで、消化不良を起こすことなくきっちりと物語に幕を下ろすことができるのだ。

人生の辛苦が味わえるのも原典の大きな効用である。親兄弟を殺されたり食われたり、ついには自分が食われてしまったり。現実にはあり得ない絶体絶命のピンチを疑似体験することで、読み手は精神的なタフさを身に着けられるかもしれない。

さて大人が子どもに読み聞かせをする場合、マイルドなアニメ絵本かスリリングな原典か、どちらを選べばいいのだろう? 子どもの年齢にもよるが、ぜひ両方を読んであげたい。何を気に入るかは本人次第。子どもにとっての良書は子どもが決めるもの。さまざまなストーリーに出会うことで、物語の奥深さに触れる手掛かりをつかめるはずだ。

取材協力:ブティック社

出版社の営業事務、編集プロダクション勤務を経て2002年よりフリーライターに。育児雑誌をメインに、30代女性向けの恋愛コラム、ライフスタイルインタビュー、不動産関連情報、各種企業タイアップ記事などの構成・取材・執筆を行う。無節操な仕事ぶりが身上。