清原果耶 (C)エンタメOVO

 監督・山下敦弘と脚本家・宮藤官九郎が初タッグを組み、台湾映画『1秒先の彼女」(20)をリメークした『1秒先の彼』が、7月7日から全国公開される。舞台を京都に移し、男女のキャラクター設定を逆転させ、周囲よりワンテンポ早い男性とワンテンポ遅い女性の“消えた1日”をめぐる物語を描いた本作で、”ワンテンポ遅い”レイカを演じた清原果耶に話を聞いた。

-最初に宮藤官九郎さんの脚本を読んだときは、どんな風に思いましたか。

 きっととっても温かい映画ができるのだろうなと思ったことが一つと、出てくるキャラクターが、みんな個性的で、私が演じたレイカちゃんも、よく考えればとっても個性が強めなキャラクターではあるんですけど、それが薄れるぐらい、ものすごく特徴があるキャラクターが集まっていて、すごく魅力的だったので、演じるのが楽しみだなと思いました。

-演じる上で、何か気を付けたことはありましたか。

 (山下敦弘)監督と毎日現場で話していたのは、レイカちゃんの柔らかい雰囲気。空気のようにふわっと生きているというか、特別何かに執着することもなく、なるようになるという感じについてでした。部室に住んでしまったり、ちょっと気になるから尾行してみようみたいな、強いところもあるけれど、それを覆うぐらいの優しさを持ってできたらいいよねという話はしていました。

-今回演じたレイカは、「人よりワンテンポ遅い」というキャラクターでしたが、それをどう感じたかということと、どう演じようと思いましたか。

 撮影をしながら、「ワンテンポ遅いのって、思ったよりも時間を取らないとそうは見えないんだな」と気付きました。自転車がバスにぶつかって、みんなが「えっ何?」って振り返るシーンも、みんなはぱっと振り返れるけれど、私はそれをしてはいけないし、しかもそれは無意識の行動なので、すごく難しいと思いました。振り向くタイミングを探ったりするのは、計算というとちょっと違うかもしれませんが、そういうところを細かく組み立てていくのが難しかったです。

 普段は、「ちょっとクールそうだね」とか「しゃべらないとちょっと怖そう」とか言われがちなんですけど、レイカちゃんも言葉数が少ないキャラクターだったので、そういう、ちょっと近寄り難い雰囲気はなくした方がいいなと思って、監督と話をして、自信がなくはないけれど、ちょっと自信がないように見えるように、体を縮こませてみたり、手をわさわさしていたりとか、そういうところには気を付けて作っていたかもしれないです。

-ご自身は、早い方と遅い方のどちらでしょうか。

 あえていうなら、早い方だと思います。日によっては「遅くしよう」みたいな日もありますが、「今日はゆっくりでいいや」という日以外は、現場にいても、きゅっとして、「よし行くぞ」みたいな、「呼ばれたらレッツゴー」みたいなことは心掛けているので、多分早い方だと思います。でも、今回、自分が思っていたよりも遅くはないんだというのが分かって、レイカちゃんをやっているときは、「もっとゆっくりでいいんだ」と思いながら、のんきに緩やかに生きていました。

-それは、今回ロケをしたのが京都だったから、というのもあったのでしょうか。

 それもあったと思います。京都弁指導の先生がいらしたんですけど、せりふの言い回しとかで、ここは多分、京都で生きるレイカちゃんだったらもうちょっとゆっくり言うかも、みたいに、アクセントだけではなく、京都に住んでいる人の空気感みたいなものも教えていただきました。「このせりふ、パッて言いたくなるけれど、もうちょっと遅くした方がいい」とか、何かフィジカルな面だけではなくて、言葉の言い回しなども全てが難しかったという思いはあります。毎日が学びの日々でした。

-相手役の岡田将生さんの印象は?

 とっても柔軟な方だと思います。監督と話し合って、幾つかテーマが浮かんだときに、「じゃあ全部やってみます」という、そのクイックさというか、対応力みたいなところがすごいなと思います。ハジメくんって、とても難しいキャラクターだなと思っていて、もし自分が「ハジメくんをやって」と言われたら、心がせかせかして大変だろうなと思うので、それを、現場で大変なそぶりも見せずに、全部ちゃんと順序立てて消化していく岡田さんの姿はとてもかっこよかったです。

-山下監督の演出で、特に印象に残ったことがあれば。

 「レイカちゃんの感情としてはこうしたいんだけどな」という思いが浮かんだときに、それを伝えると、ちゃんと向き合って、一緒に悩んでくださる監督だったので、毎日安心して現場に行けました。あまり指示はなさらず、任せてくださっていたと思います。でも、「おろおろしてください」みたいなことは言われました。あとは、「ふわっとした感じで」と言ってくださったので、気楽にできました。こういう、なぎにいるようなキャラクターって難しいだろうなと思ったので、すごく助けてもらいました。

-宮藤さんの脚本のせりふはいかがでしたか。

 宮藤さんの脚本は今回が初めてなので、あまり語ることはできないんですけど、「宮藤さんの脚本は、ト書きが少ない」と岡田さんがおっしゃっていて、「宮藤さんの世界観は会話劇で、会話のテンポがとっても大事なんだ」と、いろんな方もおっしゃっていたので、確かにそうだったかもしれないと思います。

-この映画は台湾映画の『1秒先の彼女』のリメークですが、オリジナルは見ましたか。

 出演が決まったときに見ました。ファンタジーの要素がすてきだなと思いました。普段はファンタジー系の映画はあまり見ないので、新鮮な気持ちで見られて、主演のお二方がとてもすてきだったので、日本のリメークでもいいものが作れたらいいなと思いました。「私は、この静かなワンテンポ遅れるレイカちゃんを演じるのか、楽しみだな」と思いました。

-完成した映画を見て、どう思いましたか。

 とっても優しい映画ができたと思いました。普段は、ファンタジーとかはあまり見ないんですけど、こんなにも心の隔たりがなくなるような、何か気が楽になるというか、温かい映画に参加できてよかったなという思いと、現代を生きるいろんな人に見てもらえたらいいなという思いがしました。

-最後に、観客に向けて一言お願いします。

 ワンテンポ早い人と遅い人が出てきたり、ガングロギャルとその彼氏が出てきたり、職場でめちゃめちゃよくしゃべる人たちがいたりとか、いろんな人が出てきますけど、みんな悪い人じゃなくて。すごく優しい映画というか、それぞれの人を否定しない、否定されないという距離感の気持ちよさを感じていただけるような作品になったんじゃないかなと思います。私も見終わったときに、「あー、優しい映画ができたな」と思いましたが、ちょっと気が楽になるような、何も気負わずに見てもらえるのがこの映画の魅力かなと思います。

(取材・文・写真/田中雄二)