反田「僕が想像していた通りの阿字野の声だった」
――最近、音楽を題材にした漫画を映像化した作品も増えてはいるものの、聴こえないものを再現するのはとても難しいことだと感じるのですが、オファーを受けた時、プレッシャーはありませんでしたか?
反田:僕はプレッシャーという言葉を知らないんです。気付かないだけなのかもしれないんですけど(笑)、僕はただ純粋に嬉しかったです。『ピアノの森』が映像化されるなら絶対に携わりたい、という思いがずっと強くあったので、数年前にも勝手に「出れたらいいな」ってひとりでツイートしたりしていました(笑)。それで、今回出演することができたので、レコーディングの時は、本当に夢が叶ったなと思いました。
諏訪部:出会うべくして出会った、みたいな感じですね。
反田:だから僕の中では純粋に楽しいという気持ちしかなかったです。でも、ファンでありイチ読者として見ていても、演奏シーンって難しくて。「音がキラキラ流れている」と書かれていたら、漫画だとキラキラが描かれているんですけど、それを音楽だけで表現してほしいと言われたら難しいわけです。でも、今はアニメーションという技術があるので、そこに僕も頼ろうと思っています。
諏訪部:映像との相乗効果で、素敵なシーンになると思いますよ。視覚情報しかない漫画の表現を聴覚情報へと変換するのは決して容易な作業ではないですよね。漫画や小説が原作の作品で、「この世のものとは思えぬすごく良い声」などと表現されている役を演じる際は戦々恐々とします(笑)。
――ちなみに、漫画の中で、どんな演奏なのか少し言葉で表現されている場面は、反田さんの頭の中では音楽がイメージされて流れているんですか?
反田:曲のタイトルが出てくるとどんな曲なのかはなんとなくわかるので、漫画を読みながら頭の中で音楽は流れますけど、それは一体じゃあ誰の演奏の音なのか、とは思っちゃいます。声優さんだったら、漫画を読みながらこれはどういう声で誰の声なんだろうって思うのと一緒だと思います。それは、たぶん僕の“理想の音質”なんだと思うんですよね。
――反田さんは音楽に特化されているから音楽が流れてきますし、きっと声優さんに詳しい人だったらキャラクターの声が自然と声優さんの声で聞こえてきたり、そこは一緒なんですね。
諏訪部:『ピアノの森』も、読者のみなさんはそれぞれのボイスキャスティングで読まれていたと思います。今回のテレビアニメシリーズでは自分が阿字野を演じさせていただいていますが、私の阿字野はこんな声じゃない!」と思われる方も当然いらっしゃることでしょう。しかし、しっかりと彼の心情を表現していくことで、「ちゃんと阿字野壮介だった」と最後には言っていただけるよう頑張ります。
我々が作った音が合わさって、阿字野という男をより魅力的な存在にできたら
反田:実は僕はもう、みなさんが声を入れた第1話をちょっとだけ見せてもらったんです。本当に阿字野でした……!
諏訪部:本当ですか?
反田:僕が言うのも失礼なんですけど、僕が想像していた通りの阿字野の声だったので、本当にびっくりしました。
諏訪部:そう言っていただけると本当に嬉しいですね。
反田:不思議ですもん。今、こうやって声を担当される方と僕が話していることが、夢のようです(笑)。
諏訪部:アニメーションではたまに、歌担当の方がいらっしゃるときがあるんです。セリフは声優が、本編中の歌唱部分のみプロのシンガーが担当、という感じで。本作では、楽器の演奏者でそういった感じのことをやるんですよね。
――キャラクターごとに演奏者が違うというのが珍しいですよね。
諏訪部:ピアノ演奏はこだわるべきポイントだと自分も思います。そこをしっかりやっている制作サイドの真摯な姿勢には非常に共感します。情熱のある現場には奮起せずとも自ずと高いモチベーションで臨めます。ありがたいです。
――確かに! 本気度が違いますね!
諏訪部:現時点(取材は3月上旬に実施)では、反田さんの阿字野としての演奏を聴かせていただけていないのですが、阿字野の音をどうやって作っているのかを伺えたのはとてもプラスになりました。自分も演奏に負けないよう、心の機微をより一層意識して演じていきたいと思います。我々が作った音が合わさって、阿字野壮介という男をより魅力的な存在にできたらいいですね。