早産児で出生した子どもが抱えるリスク

「世界早産デー」に行われた「#ちいさな産声サポートプロジェクト展」の様子

では実際に、早産で出生した子どもには、どのようなリスクがあるのでしょうか。

小児科医の有光威志先生によると、在胎28週未満または1,000g未満の早産児は、幼児期には重度の認知運動障害が10~15%、中等度の障害が20%、軽度の障害が30%あると報告されているのだとか。

これらは、27%の子どもは10歳までに改善されているそうです。

また、脳性麻痺も5~10%の割合であるといいます。診断されていなくても、32%がバランス、手先の器用さ、狙いを定めることやキャッチすることなどが困難なのだそう。

学童期には、読解や数学に困難を抱える可能性が高く、支援が必要になります。

成人期には45~60%に認知機能や視覚運動能力に1つ以上障害を抱えます。低身長、低体重、肥満、喘息、慢性腎臓病、高血圧、糖尿病、虚血性心疾患のリスクがあります。

在胎34~37週未満の後期早産児については、小児期に認知障害や運動障害、精神行動障害、感覚障害など、正期産児と比べてリスクが高いという報告があります。

成人期においても、正期産児と比べて2型糖尿病および脳卒中のリスクが増加すること、教育や就職に課題を抱える可能性がやや高いことが示されています。

赤ちゃんが予定より早く産まれたことで、これだけのリスクがあることを医師から説明されたら、早産児家族の不安はどれほどか想像にかたくありません。

できるだけ合併症を減らし、適切な発達を促せるよう、小児医療の現場では救命とその先を見据えた新生児医療を行っています。

早産児の救命治療とは

「世界早産デー」に行われた「#ちいさな産声サポートプロジェクト展」の様子

有光先生は、「まだお腹の中にいるような小さい赤ちゃんが、子宮という環境の外で受けるストレスは赤ちゃんの発育・発達に悪影響を及ぼします。

あたたかい心を育む医療には、そのストレスを最小限とし家族が安心して愛着を育めるよう配慮をすることが重要」と話します。

早産児の新生児医療で行われている3つのケア

そんな考えのもと、早産児の新生児医療で行われているのが「ミニマルハンドリング」と「痛みのケア」、そして「ファミリーセンタードケア」です。

ミニマルハンドリングと痛みのケア

「ミニマルハンドリング」は、赤ちゃんのストレスを最小限にするために治療・検査・処置をできるだけ減らすこと。

赤ちゃんの状態に配慮しながら必要な処置の頻度を減らし、短時間で優しく行うことで合併症を軽減し、予後が改善する可能性が高くなるのだそう。

また、痛みによって新生児の脳の構造が変化し、赤ちゃんの将来の発達スコアが下がるという報告があるため、赤ちゃんの痛みを軽減することも重要。

産まれたばかり赤ちゃんを母親(または父親)の胸元に肌に触れた状態で抱っこさせる「カンガルーケア」によって、家族のストレスと赤ちゃんの痛みを減らすことができると言われています。

ファミリーセンタードケア

「ファミリーセンタードケア」とは、NICUや新生児病棟において家族が赤ちゃんと一緒の時間を過ごし、赤ちゃんの治療やお世話に積極的にかかわること。家族の触れ合いを重視し、面会時間の制限もなく赤ちゃんと家族が一緒に長く過ごせる環境を目指しているそうです。

両親による語り掛けや赤ちゃんの口腔内への母乳塗布といった関わりで、子どもの成長発達や母子の愛着形成に好ましい影響があるとされています。

早産児の家族への支援と必要なサポート

「世界早産デー」に行われた「#ちいさな産声サポートプロジェクト展」の様子

世間の早産児への理解がまだまだ不足している中、子どもの将来に大きな不安を抱える早産児家族に対し、どのような支援があるのでしょうか。

橋本先生は、コロナ禍により、NICUの面会状況は危機的なことになってしまったといいます。

感染者数に関わらず、病院それぞれに方針が違います。「家族面会も治療の一環」だとして極力面会を維持した施設もあれば、未だ制限の強い施設もあります。

橋本先生は「面会が十分にできなかった親子には、より丁寧なケア、サポートが必要」だと話します。

行政の相談支援事業として療育支援指導や巡回相談指導、自立に向けた育成相談なども行っていますが、十分に届いていないという現状があるそう。

行政だけでは不足する家族支援として、同じ体験をした家族同士で感情を共有し、情報を交換する患者家族会があります。

2020年には、全国の子ども(特にNICUに入院した子ども)と家族、 および家族会の全国ネットワーク「日本NICU家族会機構(JOIN)」も設立されました。

1つの家族会からの支援では不足する部分を、他の家族会からの支援で補うことはもちろん、学会やメディアなどを通じて家族の声を社会に届ける役割を果たしています。

健診や子育て支援センターなどで、医療従事者や保健師、役所の職員から配慮が不足したような声をかけられて傷ついた早産児家族の声もあり、今後は一般家庭に限らず周囲の理解を広めていくことも重要です。

医療機関や家族会、行政で継続的な支援を行いつつ、より多くの人に早産児とその家族を知ってもらい、理解を得ることが求められています。

「(当事者家族に)かける言葉も大切だけれど、大変な思いをしながらここまで育ってきた・育ててきたことへの想像力とリスペクトが大切。そこから生まれる温かいまなざしが、親子を支えます」(橋本先生)

筆者自身、第1子の出産時に切迫早産(早産の可能性が高い状態)になったことがあるため、早産についてはなんとなく知識がありましたが、では実際に早産で子どもが産まれた場合にどういうリスクがあるか、どういう支援が得られるのかということは詳しく知りませんでした。

正産児にもいろいろな子どもがいるように、早産児にもいろいろな子どもたちがいて、子どもに必要な治療も、家族に必要な支援もすべて同じではありません。

今後、早産児についての世間の理解が深まり、早産児への適切な支援が行われるよう、私たち一人一人が“知る”ことから始めることが大切なのではないでしょうか。

お話を伺ったのは…

有光威志先生

慶應義塾大学医学部小児科 有光威志先生

2002年、慶應義塾大学医学部卒業。2021年から慶應義塾大学医学部小児科学の専任講師に。日本新生児看護学会「NICUに入院している新生児の痛みのケアガイドライン」委員会委員。

橋本洋子先生

一般社団法人産能教育研究所 臨床心理士・公認心理士 橋本洋子先生

1972年、上智大学文学部教育学科心理学専攻卒業。1994年から山王教育研究所にて周産期領域を含む心理療法に取り組む。子ども園2園で嘱託にて勤務。

エディター&ライター。エンタメ誌などの編集を経て、出産を期にライターに。ミーハー精神は衰えないものの、育児に追われて大好きなテレビドラマのチェックもままならず、寝かしつけたあとにちょこちょこと読むLINE漫画で心を満たす日々。