行政書士・ファイナンシャルプランナーとして夫婦の離婚相談に携わる筆者が相談を受けた女性の離婚理由を紹介します。

突然ですが質問です。「夫婦なら助け合うのは当然」だと思い込んでいませんか?

法律の条文は誰にでも適用されます。しかし、「夫婦は助け合う義務がある」と書かれてわけではありません。せいぜい結婚式でそう誓うくらいです。「互いに助け合わなければならない」という契約を結んだわけでもありません。

つまり、相手がピンチに陥ったとき、本当に助けるかどうかは各人の自由です。統計上、3組に1組は離婚します(令和4年、厚生労働省の人口動態統計。婚姻が50万組、離婚が18万組)。

特に夫婦の真価が問われるのは病気のとき。例えば、突然の告知に驚き、治療法の選択に悩み、病魔の存在を恐れる配偶者の姿を目の当りにして、どうように行動するのかです。普段は顔を会わせず、口も利かず、空気のような存在でも、いざ病気になると「助けてあげないと!」とスイッチがOFFからONに切り替わることもあります。

今回の相談者・近藤奈美恵さん(42歳/仮名)の人生が変わったのは、健康診断で癌が見つかったときです。国立がん研究センター(2019年)によると日本人が一生のうちに癌と診断される確率は男性が65%、女性が51%。つまり、2人に1人は癌にかかっています。病床の奈美恵さんを見て、単身赴任中の夫はどのような反応をしたのでしょうか?

夫の単身赴任中に妻の癌が発覚

筆者は行政書士・ファイナンシャルプランナーとして夫婦の悩み相談にのっていますが、奈美恵さんが筆者のところへ相談しに来たとき、抗がん剤の副作用による脱毛や眩暈に悩まされている様子でした。ウィッグをつける恥ずかしさはもちろん、ふらついて転ぶ心配もあったので、通院以外はほとんど外に出ず、家にこもる日を送っていたとのこと。

「家族のために生きようと思い、治療を受けることにしたんです。私は主人のことを信頼していましたし、愛していました。主人の存在が私を勇気付けてくれました」と言います。ようやく白血球の激減期を過ぎ、抗がん剤の恐怖も薄れ、副作用にも慣れた頃、筆者の事務所へ足を向けたのです。

奈美恵さんは「自分の病気で回りを振り回したくない。」と思っていました。そのため、夫に「単身赴任を途中で切り上げて戻ってきて欲しい」と頼みませんでした。かなり病気が進行していたため、奈美恵さんは夫の帰任を待たず、手術に踏み切らざるを得ませんでした。

闘病中で不安な妻を受け止めない夫

入院中は母親に自宅へ来てもらい、息子さんのことを任せることに。卵巣と子宮の摘出とリンパ節の郭清を行ったのですが、ストレッチャーに固定され手術室に運ばれてから、酸素マスクをつけて意識が戻るまでの間、何度も夫が夢に現れたそう。現実との境が曖昧で怖かったそうです。しかし、現実の世界で夫から奈美恵さんを心配する声はありませんでした。

そのため、奈美恵さんはそんな不安な気持ちを夫へぶつけてしまったそう。例えば、夫の携帯に「もう消えてしまいたい」と録音したり、夫が出る前に電話を切ったり、夫が電話に出ても無言のままにしたり、「死にたい」とメールを送ったり…

そんななか、夫は単身赴任先から戻る決断をしたのですが、おかしなことを言い出したのです。「しばらくの間、ウィークリーマンションを借りて様子を見させて」と。なぜでしょうか?