昔ながらのストリートフード「焼き芋」は、もはや秋冬だけの食べ物ではなく、スーパーやコンビニで買える通年型のスイーツだ。
無類のサツマイモ好きのライターに現状をレポートしてもらった。
♪い~しぃやぁ~きぃ~も~ おいも
この抑揚のある呼び声が聞こえてくると、私は母にもらった500円札を握りしめて家を飛び出し、ゆっくり走る軽トラックを追いかけた。今から50年以上も前のことだ。
500円分ください! と言うと、焼き芋売りのおじさんは小さい芋をおまけしてくれた。私の初めてのおつかいは焼き芋だったのだ。
近所のおじさんはよく庭先で落ち葉焚きをしていた。その中にアルミホイルで包んだサツマイモを放りこみ、ホッカホカの焼き芋を子供たちに配ってくれた。「まだかな?」と焚き火にあたりながら、 焼き上がりを待つ。
かつて、寒い季節の日本の風物詩といえば、 ほかほかの焼き芋だった。
新芋が一番美味しく食べられるのは春から夏という説
今は、春夏秋冬365日、甘くて美味しい焼き芋が食べられる。軽トラや落ち葉焚きを探さなくても、コンビニやスーパーでいつでも焼き芋が手に入る。
サツマイモの旬は秋冬だ。しかし、最近は秋冬に収穫されたものの美味しさを最大限に引き出すよう貯蔵熟成されてから市場に出回る。
収穫された新芋は、ある一定の温度と湿度で1カ月~数カ月、蔵などで寝かせ追熟される。
そのため、しっかり熟成された甘くてコクのある新芋が一番美味しい状態で食べられるのは、春から夏というも説もあるくらいだ。
最近SNSでも話題になっているが、私の母も昔からサツマイモを炊飯器で炊いていた。
玄米炊きコース+保温でサツマイモを長時間加熱調理すると、軽トラで売られていた石焼き芋さながらだ。糖度の高い品種を選べば、ねっとり甘く仕上がる。ほくほくしたものが好みなら「鳴門金時」がいい。
近年、たいていのスーパーが焼き芋機を常設。セブンイレブンやファミリーマートなどのコンビニでも多様な焼き芋スイーツが売られている。
また、ローソンでも2022年にアイスクリームのような「冷やし焼き芋」を販売。アイスクリームのようにスプーンで食べる新しいスイーツが話題になった。
筆者はサツマイモの産地として古くから知られる埼玉県川越市の近くに住んでいるので、芋菓子には敏感だ。
デパートでは「舟和」の芋羊羹が買える。回転寿司の店には冷たいバニラアイスクリームとあつあつの芋羊羹を組み合わせたデザートや、冷やされたカリカリ飴がコーティングされた冷たい大学芋がお目見えする。
「いも恋」という北海道の粒あんとサツマイモの輪切りを山芋と餅粉の生地で包んでふかした川越名物のまんじゅうも魅力的だ。
2023年秋、スターバックスにはバターとハチミツがしみこんだ「おさつバターフラペチーノ」という焼き芋の冷たいドリンクが登場。私はこれにハマって10回以上注文した。
美味しさの正体は、「紅はるか」という品種
これは美味しい! と感動するサツマイモに出合い、品種をたずねると、たいてい「紅はるか」という糖度の高い品種だ。
私の知る限り、通年型販売といえばドンキホーテのレジ周りにある石焼き芋が始まりだった。香り豊かで甘くてねっとりした焼き芋だけを目当てにドンキに行ったこともある。
美人はサツマイモから
あちこちのスーパーで焼き芋を試したが、おすすめはヤオコーだ。イモ羊羹かと思うほどのねっとり感と甘味に感動する。
焼き芋好きは大きく分けて「ねっとり派」と「ほくほく派」に分かれるが、ヤオコーのそれはねっとりしてコクがある。
もともと甘い品種「紅はるか」を収穫後、蔵で貯蔵。温度と湿度を保ちながら度具の方法で熟成させることによって糖度を引き出し、「紅天使」として売られている。
私は行く先々のスーパーで焼き芋の香りに誘われ、つい買ってしまうのだが、ねっとり感や甘味にたまに「はずれ」があることに気づいてしまった。
同じ品種が同じ機械で調理されていても、タイミングや熟成具合によって別物に感じてしまうことがあるのだ。その点、ヤオコーの紅天使は、いつ買っても通年ではずれがない。企業努力のたまものだろう。