3.インターネット配信にまつわる現状

利益を目的としない場合には、第三十八条に規定される『営利を目的としない上演等』にかかる可能性が強いため、配信自体は現状、違法とされたケースはほぼありません。よほど悪質に歌詞を変えたり、あからさまに莫大な広告収入を狙っているなどがみられる場合には、法律にふれる可能性はあります。

また、著作権法には刑事罰が規定されていますが、基本的には親告罪といって、例えば、作詞した人、作曲した人から『勝手に使うな』というように訴えられてから、違法だと認められれば処罰されるかたちになっています。

今のところ(2014年5月時点)では、違法だとされる事例はあまりみられません。 ちなみにインターネットでいえば、今は『違法ダウンロード』についての関心が強く、事件としてしかるべき処罰をされる可能性がきわめて高いです。
 

4.「歌ってみた」「踊ってみた」動画の配信者が注意すべきポイント

現状、インターネット上ではきわめて数多くの動画が掲載されており、許諾を得ずに「公衆送信権」「送信可能化権」を侵害しているものも数多く存在する。

ただ、著作者や著作権者が警告や削除要請、損害賠償等を行う場合の多くは、動画の内容自体の著作権侵害に対するものであり、また、「公衆送信権」「送信可能化権」の侵害があっても、動画の内容自体に「著作権の侵害がない」、あるいは侵害があっても軽微なものについては「著作物を愛好するファンによるもの」という面から、事実上、放任されている側面もある。

本来は許諾を得るのが最善の方法であることは当然だ。そのうえで、事実上「どの程度までであれば、著作者や著作権者から、警告や削除要請、損害賠償等がくることはないか」「動画を制作する上で、動画の内容はどのような点に気を付ければよいか」という点について、聞いてみた。
 

現在の環境を考えるかぎりでは、配信自体で違法性が認められるケースは少ないと思います。やはりいちばん気をつけるべきなのは『営利事業にしない』という部分ですね。

例えば、認知度が高まるにつれて、動画の内容にもとづいた有料イベントを開催するなどは、法律にふれますね。また、有名になってくれば映像作品として販売できるかもしれませんが、それも著作権法に照らし合わせると違法になります。著作物を利益に変える行為をしないというのが、大きなポイントだと思います。
 

さて、著作権法について整理すると共に、「歌ってみた」「踊ってみた」動画に関わる法律的な考え方をいくつか紹介してきた。現状でいえば、配信そのものが違法と判断されるケースはよほど悪質でないかぎりはみられないようだ。しかし、あたまから利益を目的とした場合には、法律にふれる可能性がある。

日本国内だけではなく、日本の誇るアーティストやアイドル、アニメなどの文化が海外へ広まるきっかけにもなる「歌ってみた」「踊ってみた」動画だが、しかるべき部分はきちんと守りつつ、一人ひとりの配信者が自分のパフォーマンスをWeb上で発信してもらいたい。
 

取材協力 神田のカメさん法律事務所
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※記事配信後、各方面より記事に関して様々なご意見をいただきました。特にご意見の多かった「権利者の許諾」「公衆送信権」「送信可能化権」等を中心に、太田真也弁護士への追加取材を行い、改めて補足としての見解を追記いたしました。今回は「歌ってみた」及び「踊ってみた」関連動画で「どこまでのことをやったら権利者からの警告や削除要請、損害賠償、刑事罰などの問題が発生するか」という点についての考察をまとめたものです。そのため、当記事中では、著作権法上の問題が発生しない「権利者の許諾がある場合」「包括的な許諾がある場合」については記載しておりません。配信時はその点の説明が不十分だったため、この度補足・修正を行いました。

埼玉在住。編集者・ライター・デザイナーなど。制作会社から独立後、フリーランスとして出版物や印刷、Webなどに関わる。守備範囲は、アイドルやアングラ、ガジェットなど。日常すべてが取材をモットーに、寝るとき以外はネタを探すべくつねに目を光らせている。時折、夜の街もフラつく。交通費やチケット代、物販など含めれば、月に数万円使うほどアイドルが好き。30代にして、アイドルを通して“青春”を追いかけている。