真っ赤なだけはある、辛麺のお味は?

そのころ厨房では、もうひとつのメインメニューが着々と完成に近づいていた。
 

店に入って最初に目に飛び込んできた真っ赤な鍋からタレの中へ大さじ4杯。それをササッと掻き混ぜ、三たび茹であがった麺と野菜が職人の手つきで見事に盛りつけられると、辛麺(しんめん/750円)の完成である。

「できたようだね」。それまで目を閉じ、黒烏龍茶で喉を潤しながら静かに出番を待っていた編集長・吉田の鼻が、辛麺の完成を嗅ぎ逃すわけはなかった。
 

 

では、いただこう、と鳳凰の構えでどんぶりと対峙するとスープをひと口。

 

拡大画像表示 うううん

「だ、大丈夫だよ」編集長・吉田は少し潤んだ目で感想を述べた。

 

あらゆる具材に絡みつく赤い彗星たち。本当に大丈夫だろうか。無理してないといいけど、と思いながら冷やし中華は終盤に入る。
 

 

終盤に入ったせいで遠い目をしている横で、編集長・吉田の唇は赤く光る。食べ進むほどにスープも麺も赤みが増していく感がある。

どんどん赤くなっていく辛麺としだいに汗ばみはじめる編集長・吉田の顔を見ていると、やっぱり大丈夫じゃないんじゃないだろうか、と思いかけていたが、スープと麺を少し分けてもらってみると、それは杞憂であった。

一味、ラー油、胡麻、山椒ほか数種類の材料でできた真っ赤なスープは、口に入れた瞬間、凄まじい辛さが旧正月の爆竹のように駈けまわるが、辛さの滞在時間は長くない。一瞬ではかなく消えていき、むしろ次をまた見たくなる打ち上げ花火のような辛さというべきか。

辛さが引いていったあとにはじんわりと旨味がひろがる辛麺は、ボリューム以外の闘いも求める勇者にはぴったりのメニューと言えるだろう。